今度は直径2kmオーバーの小惑星がやってきたぞ2020/03/29

20200326小惑星1998 OR2

3月26日(2.37)
地球に接近する可能性があるNEO(地球近傍天体/Near Earth Object)の中で、推定直径が1kmを越える大きな小惑星が地球へ近づく機会は平均すると1年に数回。そのひとつ、小惑星「1998 OR2」(小惑星番号52768・推定平均直径2.374km・推定最大直径4.113km)が近づいてきました。約一ヶ月後の最接近まで全過程を、日本から絶好の条件で観察可能です。

1年近く前の2019年5月に地球近傍小惑星1999 KW4(小惑星番号66391)が接近したことを覚えていらっしゃる方も多いでしょう。「1999 KW4」はアテン群に属する小惑星(地球軌道の内側まで入る)でしたが、今回の「1998 OR2」はアモール群(地球軌道の内側に入らない)に属します。軌道によって分けられる「群」については前出記事リンクをご覧ください。因みに1km級以上の「潜在的に危険な小惑星」(Potentially Hazardous Asteroid/PHA)でアモール群に属するのは「1981 ET3」(3122=Florence)、「1998 QE2」(285263)、「1998 OR2」(52768)の三つだけ。この三小惑星は今回の接近を最後に、計算上少なくとも数十年は20LD以内に接近しないことが分かっています。

リンク記事の表にも書いてありますが、「1998 OR2」の最接近は2020年4月29日18:56JST、接近距離は16.36LD(1LD=月地球間平均距離(Lunar Distance)=384400km)。ただしその頃はもう南に低くなっていますから、月明かりを避けつつ、4月の早いうちに一度観察するとよいでしょう。

20200312小惑星1998OR2-gif動画
今日現在すでに14等台前半まで明るくなっており、小型望遠鏡でも十分に捉えることができます。私は既に4回観察しています。3月12日(下A画像)、3月22日(下B画像)、3月24日(下C画像)、そして現時点の最新である3月26日(記事冒頭画像)。それぞれ同一条件で撮影、おおよそ同じ仕上がりになるよう処理も極力統一してあります(※2分露出×30コマ、小惑星位置基準でコンポジット)。

中央の点像が小惑星「1998 OR2」。背景の恒星の線がそのまま小惑星の見かけの移動距離&向きを示しています。各画像の縮尺と方位は一緒なので移動の変化が分かるでしょう。日付後ろの括弧内数字は3月12日の移動量を1としたときの各日の移動量比なので参考にしてください。光度も少し明るくなりましたね。3月12日に撮影した30コマでGIF動画も作りました(右上画像)。小惑星の見かけの移動が最小の時期でしたが、1時間程度の撮影で移動がはっきり分かります。

  • 20200312小惑星1998 OR2

    A.3月12日(1.00)
  • 20200322小惑星1998 OR2

    B.3月22日(1.71)
  • 20200324小惑星1998 OR2

    C.3月24日(2.02)


今年冬の探査機「はやぶさ2」帰還とともに地球へ近づく小惑星リュウグウを観察するため、「練習用小惑星」をこれまで何回か紹介しました(2020年2月11日記事など)。これらの記事に掲載した見かけの移動速度と明るさの関係を小惑星「1998 OR2」についても図化してみました(右下図)。速度極大と光度極大とが概ね最接近のタイミングに一致していますね。つまり、4月下旬は「明るいけれど速く動く」ことになるでしょう。眼視観察なら口径30cm程度あれば見えるけれど、撮影となると「速すぎて写らない」可能性が高くなります。短時間で暗い星まで写せるような速写能力の高い望遠鏡と空の暗い観察地でなければ困難かも知れません。

小惑星1998 OR2の移動速度と光度
撮ってみたいとお考えなら、まずはご自身の機材や環境の限界を知ることから始めてください。もし「月追尾モード」など恒星追尾以外の速度でガイドする機能が付いている架台をお持ちなら、それを「小惑星移動速度」と見なして天の赤道付近を撮影することで、事前にある程度シミュレートできるでしょう。恒星日周ではない追尾速度で恒星を撮ると線状になりますが、そのなかで視認可能な一番暗い星が「その速さで移動する天体が写る限界等級」になるわけですね。小惑星をできるだけ点像にしたい場合は露出を切り詰める必要があります。

速く動く天体ほどひとつのピクセルに留まる光量が減り、限界等級は明るくなります。露出を切り詰めれば尚のこと。シミュレート撮影した写野で13等星程度が確認できなければ、4月下旬に「1998 OR2」を撮影しても写りません。「ではどうしたらいいか」という対策を考えてみてください。少しでも暗い天体を捉えるには、感度を上げたりF値の小さい光学系を選択しながら様々な撮影条件を試す他はないでしょう。低空や霞んだ空での大気減光、光害の影響もお忘れ無く。

小惑星「1998 OR2」の位置は下の星図通りです(ステラナビゲーターで作図)。4月19日前後にプレセペ星団の東側を通ります。この星図は地心位置での表示ですから、地上から観たものとは若干のズレがあります。みなさんがお持ちの星図ソフトでご自身の観察地からの位置を確認してくださいね。なお5月22日にも小惑星「1997 BQ」(番号136795・推定平均直径0.862km・推定最大直径1.493km・アポロ群)が16.02LDまで接近しますが、これは暗い上に西空低くて観察に適しません。今年の1km級NEO接近はこの二件だけです。

  • 小惑星1998 OR2星図1

    D.2020年1月から4月中旬
  • 小惑星1998 OR2星図2

    E.2020年4月下旬


地質標本館
【小惑星つながりの余談】
2020年・冬アニメ「恋する小惑星」が最終回を迎えました。「高校地学部に集う少女たちの学園もの」という設定ながら、中二病展開や萌えファンタジーではなく、ガチで天文・地質・気象分野を取り込んだストーリーが楽しめました。ある意味「お仕事アニメ」「教育アニメ」の一面も入ってたんじゃないでしょうか。「環水平アーク」が登場する(※10話)なんてアニメ史上初(たぶん)、もう永久に無いんじゃないかとビックリしましたよ。

アニメ聖地のひとつと言っていい茨城県つくば市は、主に4話の夏合宿回に登場したほか、市内に実在する多数の研究施設が制作協力していました。私が所属しているつくば星の会は「つくば科学万博(1985年)」よりも前、つくば研究学園都市の黎明期に誕生しましたので、“聖地”の職員や関係者が多く所属し、相互交流も盛んです。(私自身も若いころ三施設で働いてました。)「アニメのあのシーンは○○の△△から見たアングルだよね」などと、各施設を知り尽くした楽しみ方ができました。

田植えが終わった田園と筑波山
地学部顧問のキャラ・遠藤幸先生の実家やエンディング曲のサビで背景に登場する山は右画像に似てるでしょう?これは「筑波山」。かつて私たちが天体観測のベースとして毎晩集い、数え切れないほど見てきた光景です。(→アステリズム探訪[5]:ひしゃく星とやまがた星参照。)また、左下画像は「あそこらへんにでっかいパラボラアンテナが…」と先生が回想するVLBIアンテナがまだあった頃の国土地理院。画像下部には最終回に一瞬登場した「日本列島球体模型」も見えてますよ。

国土地理院
星仲間のひとりが先月久しぶりに「地質標本館」を見学してきたと話してくれました。展示物が多くなり、客層も変わり、特に高校生が少なからず見受けられたと驚いていました。写真を提供していただきましたので下に掲載しておきます。アニメのシーンにも出てきた、実際の展示物です。

アニメやドラマの影響で一時的に関心が高まる…野球、テニス、サッカー、バスケ、登山やキャンプに至るまで、参加人口が増える現象はこれまでの歴史が物語っています。でももっぱら熱い展開が織り込めるスポーツ系部活が多く、言い方は悪いけれど派手さが無く地味な研究系文化部はあまり取り上げられません。アニメスタッフも盛り上げるのに苦労するんじゃないかと思います。どうしても部活動そのものを掘り下げることを避けて、青春恋愛もの、異能力もの、ミステリーや探偵もの、ドタバタコメディ等に逃げてしまう傾向がありました。そんな意味で「恋する小惑星」は“誰かと競うことなく自分自身に向き合う”正当派アニメとして、とても貴重だったと感じます。

何がきっかけだとしても、具体的な地学分野…天文・地質・気象と、そこから発展する防災や地図技術、地盤・海洋・宇宙などの調査、そして上述した地球接近小惑星捜索や地球外天体の探索などへの関心が若い世代に高まってくれたなら、地学ファンの一人としてとても嬉しい。つくばを訪れる機会があれば、ぜひ全施設を回ってみてください。他分野の研究所もビックリするくらい面白いですよ。4月の科学技術週間には各研究所の一般公開や見学ツアーも行われます。(※今年は新型肺炎の影響で中止になるかも知れませんが…)

  • 地質標本館
  • 地質標本館
  • 地質標本館
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