明け方に勢ぞろいした太陽系の天体たち2020/03/19

20200319月と三惑星
昨夕から今朝にかけても良く晴れましたが、前夜並みの劣悪透明度。光害が強い夜半までは肉眼で3等星がやっと見えるような始末で、夜半を過ぎても少し改善される程度でした。それでも貴重な晴れ間です。明け方には細くなった月と火星・木星・土星の三惑星が接近するとあって、心待ちにしていたのです。

その割にはうっかり寝過ごすところでした。全天体ともかなり低空ですから移動しなくてはならず、移動途中で三脚から小型赤道儀が外れ落ちたり、電源コードが千切れたりと散々な目に遭いつつ、航海薄明が始まったころに何とか機材設置が間に合いました。左が苦労して撮影できた画像。月と惑星だけでなく周囲の微光星までできるだけすくい上げるように画像処理を工夫しました。撮影時点では約8°の円内に全ての天体が収まってます。絞り込んで撮影したおかげで、木星の光芒から衛星がきちんと分離して写りました。この画像でも木星すぐ右上にカリストが確認できるほか、元画像ではガニメデとエウロパも見えました。イオは木星に近すぎて見えません。さほど倍率を上げなくても、四大衛星は見えるんですね。

天気の恵みや太陽との離角条件も含めると、四つもの天体接近がこんなに良く見える機会は滅多にありません。アーカイブ「多天体の接近現象一覧」を調べていただくと分かりますが、月+肉眼可視惑星のうちどれか四つが10°未満に収まるケースは、2026年4月16日朝の土星・火星・月・水星(太陽に近過ぎ)、2028年6月21日朝の水星・火星・月・金星(これも太陽に近い)…といった長いスパンでしか起きず、太陽に近いケースを除くとほぼ残りません。必ず晴れるという保証も無いでしょう。今朝の接近はここ数十年の中で最高の条件だったんです。苦労した甲斐がありました。

3/20追記:1900年から201年間の四天体接近について、あらためて計算しました。記事末の表をご覧ください。これを見ても分かる通り、太陽離角50°以上かつ天体相互離角10°以下のケースは、今回と2080年11月18日の二回しかありません。いかに貴重なシーンだったか分かるでしょう。


20200319月と三惑星+α
調べると、三惑星以外にも名の知れた太陽系天体がこの写野内にありました。ひとつは冥王星。もうひとつは小惑星リュウグウです(右のマーカー付き画像参照)。冥王星は14等台、リュウグウは22等台ですから、こんなカメラではとても写りません。でも偶然にも同じ方向にいるんだと思うと、何だか楽しくなりますね。

時間は戻りますが、昨宵から夜半前にふたつの彗星を撮り比べてみました。現在日本から見えるトップクラスの明るさであるアトラス彗星(C/2019 Y4)とパンスターズ彗星(C/2017 T2)です。パンスターズ彗星は我が家から光害の強い方向で、しかも早く撮影しないとすぐ低くなってしまいます。住宅事情で22時以前は頻繁にヘッドライトに照らされる劣悪環境のため、1月末に撮影して以降なかなかチャンスに恵まれませんでした。

下A・B画像はほぼ同じ条件で撮影・仕上げたものです。淡い部分まで見えるよう、画像濃度をかなり明るくしてあります。彗星の光度観測をまとめている星仲間の吉田誠一氏によると、もうアトラス彗星がパンスターズ彗星の明るさを上回ってしまったようです。ただ冒頭に書いたように、当地では透明度の変動が凄まじく影響し、日によってはコマの大きさが半分に減ってしまうようなこともあります。低空の金星やシリウスが霞んでしまうのですから、たかだか7、8等の彗星はひとたまりもありません。良い空で見て見たいものです。

  • 20200318パンスターズ彗星(C/2017 T2)

    A.パンスターズ彗星(C/2017 T2)
  • 20200318アトラス彗星(C/2019 Y4)

    B.アトラス彗星(C/2019 Y4)


【付記:四天体の大接近/1900-2100年】
日時(JST)最大天体離角(°)位置最小太陽離角(°)天体配列
1901年11月16日 0:007.37E46.18金月木土
1919年10月20日 12:0010.28W40.21金月土火
1922年8月25日 18:0011.30E34.54土月金木
1946年8月31日 0:0011.67E36.80火月金木
1960年11月22日 12:0010.10E35.36木金月土
1970年12月25日 18:0014.44W36.86木月金火
1972年4月17日 0:009.46E37.70土月金火
1980年11月4日 18:004.45W36.15金土月木
1990年2月22日 18:009.74W37.78月金土火
1991年6月16日 6:004.48E45.34金月木火
日時(JST)最大天体離角(°)位置最小太陽離角(°)天体配列
2010年8月13日 12:008.14E41.77土月金火
2015年10月10日 6:0012.02W33.62木月火金
2015年11月7日 0:0010.17W46.05金火月木
2020年3月19日 6:008.08W58.97土月木火
2020年4月15日 12:0014.78W74.97火土月木
2022年3月29日 0:006.69W45.72月土金火
2039年11月13日 6:0012.21W42.24土金月木
2040年8月12日 12:0010.29E38.46火木月土
2042年9月17日 18:008.66E32.70月金土火
2047年2月28日 12:009.72E30.61火金月木
2054年5月3日 12:0014.41W40.54金土月火
2060年4月5日 0:006.40E43.83金木土月
2060年7月24日 6:0011.06W37.04木金月土
2080年10月22日 6:0014.25E88.80火土月木
2080年11月18日 12:006.93E73.43土月木火
2080年12月16日 12:007.25E47.04金土月木
2092年8月29日 12:0012.40W34.55火金月土
日時(JST)最大天体離角(°)位置最小太陽離角(°)天体配列

  • 月と可視惑星(水星・金星・火星・木星・土星)のうちの四天体が接近する状況を自作プログラムで概算しました。
  • 1900年始めから2100年終わりまで、「太陽から30°以上離れた位置で、四天体全てが15°以下まで接近するケース」をピックアップしました。
  • 前後数日に渡って条件を満たす場合は一回のケースとして統一し、その中の離角最小日時のみを掲載しました。
  • 「位置」の項目は、Eは太陽の東側(宵の西空で見やすい)、Wは太陽の西側(明け方の東空で見やすい)を意味します。
  • 「天体配列」の項目は太陽に近い順に並んでいます。星の字は略してあります。その他、基本的にアーカイブ「多天体の接近現象一覧」の内容表記に準じます。
  • 日ごと6時間おきに計算したので、接近極小値そのものではありませんが、近い値として目安になるでしょう。ただし月の動きは約0.5°/hと速いため、月が配列の東端にある場合は計算値と実際の状況とのズレがやや大きいと思われます。
  • 接近最小日時に日本から見えるかどうかは考慮していません。


参考:
アーカイブ「多天体の接近現象一覧」
アーカイブ「天体の接近現象一覧」
アトラス彗星(C/2019 Y4)に関係する記事(ブログ内)

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