ダイヤ富士撮影ポイントの変化と閏日2020/02/29

茨城県からのダイヤ富士
春を迎えると急速に昼の時間が長くなり、一日の気温が下がりきる前に翌日に向けた気温上昇が始まる感じを受けます。実際、太陽が空に留まる時間の変化は春分の頃がいちばん急速です(右下グラフ参照)。

今日は4年ぶりの閏日挿入でしたが、前回の閏日記事で「ダイヤ富士撮影ポイントは毎年微妙に変化するから固定と思い込んでる人は気を付けよう」というテーマを取り上げました(→2016年2月29日記事)。今回はさらに突っ込んで分析してみましょう。日の入り時のダイヤモンド富士を想定していますが、日の出時でも同様ですし、富士山ではなく地元の郷土富士とか日の出入りに重なる島・シンボルタワー・ビル等でも同じ考察が可能です。

昼時間の前日差・2020年・つくば市
はるか1.5億km先で輝く太陽は地球のどこで見ても見かけの大きさ変化は感じられません。でも旅程数キロから数百キロ程度の地物は、そこまでの距離に応じて見かけの大きさがかなり変わります。左上画像は私が住む茨城県南部で撮影したダイヤ富士。富士山からおおよそ百数十km離れており、太陽が火口平坦部をすっぽり覆ってしまいます。富士山に近い場所では絶対に見ることができないでしょう。

富士山と太陽の対比がどう変化するか、景観描画に定評あるカシミール3Dでシミュレートしてみました(下A−E図)。富士山が真西に見える架空地点で、測地距離のみ30kmずつだんだん遠くしています。黄色丸は太陽の大きさ。富士山から70kmほど離れると、火口平坦部と太陽視直径がほぼ同じ幅になるようですね。また地球の丸みに応じて山麓が地形下に隠れ、富士山頂がどんどん低くなります。

20200224ダイヤ富士(中川昇さん・横浜で撮影)
これらの画像はフルサイズ換算200mmレンズ程度の画角ですが、太陽と富士山全景をバランス良く撮影する焦点距離選びがとても悩ましいですね。

実写の比較例として、天文関係の古くからの知人、中川昇さんが最近撮ったダイヤ富士の画像をお借りしたので左に掲載します。富士山から約80kmほど離れた横浜から撮影されたとのこと。記事トビラ画像と比較すると差が歴然で、太陽視直径が火口平坦部幅にほとんど一致していることが分かるでしょう。

  • 見かけ上の大きさ・富士山から東へ30km

    A.30km
  • 見かけ上の大きさ・富士山から東へ60km

    B.60km
  • 見かけ上の大きさ・富士山から東へ90km

    C.90km
  • 見かけ上の大きさ・富士山から東へ120km

    D.120km
  • 見かけ上の大きさ・富士山から東へ150km

    E.150km


日没方位角・2020年つくば市
ところで「太陽が沈む方位は季節によって変化する」ということをみなさんもご存じでしょう。では日没時の方位角が年間でどう変化するか具体的に分かりますか?場所によって若干の差がありますので、ここでは当ブログ基点である茨城県つくば市を例に2020年の値を計算してみました(右図)。方位角は真北=0°、真東=90°、真南=180°、真西=270°とします。ちょうど春分と秋分のころ真西近くに沈み、夏は北寄り、冬は南寄りという教科書通りのグラフになりました。

気になるのが「閏日前後にどうなっているか」「非閏年ならどうか」ということ。これが当記事のテーマです。まずは今年を含む2018年から2022年まで、2月26日から3月4日までに限定して、右上図を拡大描画してみました(左下図)。

年を変えながら計算すると、日没方位角は少しずつずれることが分かります。微少ではあるけれど、つくば市の場合ずれ幅がおよそ0.34°もあって、これは太陽視直径の約7割に相当します。広角で夕暮れを撮るならともかく、ダイヤ富士のようなクローズアップでは馬鹿になりません。そもそも7割もずれたら、火口が太陽幅より小さく見える遠方観察地ではドンピシャで沈まなくなってしまうでしょう。「ダイヤ富士ポイントはこのズレ幅のため毎年変わってしまい、富士山から遠いほど影響が大きい」ということが言えます。

日没方位角・数年間の閏日前後・つくば市
移動して修正できる場所なら良いけれど、狭い展望台から観察するようなケースでは「4年に1回しかピッタリ沈んでくれない」となってしまうでしょう。(実は我が家のベランダが正にこの状況です。)

さらにややこしいのは、X軸の目盛。今年は閏日がありますから2月28日の次は29日ですが、それ以外は3月初日になります。日付を固定してみると、たとえば今年(オレンジ線)と来年(赤線)の2月28日はズレ幅いっぱいに変化しますが、3月1日同士を比べるとそうなっていませんね。閏日の前と後とでズレ効果の出方が変わるんです。

これを更に詳しく見てみましょう。今度は方位角をX軸にとり、2月28日と3月1日のみの方位角変化を2010年から2030年まで追ってみました(下F−H図)。ここまでくると観察地緯度の影響が目立ってきます。参考までに沖縄県那覇市と北海道札幌市の同じ図も掲載したので比較しましょう。横向き赤ラインは閏年です。ギザギザのタイミングをよくよく見比べてください。

地球軌道は365日×24時間で動ける距離よりも少し長いそうです。このため毎年同じ日に地球から見た太陽は前年のスタートラインに届かず、少しずつ遅れる(黄道上を逆行=西へずれる)ように見えます。この影響で2月末頃の日没方位角は南へ南へとずれるのです。でもズレっぱなしではいけませんから、4年に1回だけ1日ぶん追加し、概ね4年前のスタートラインに戻すような仕組みが「閏日」なのでした。従って閏日毎に日没方位角も戻るのですが、閏日挿入前と後とではズレ方が変わる、という事情が生じてしまいます。2月28日は閏年まで南へのずれが続き、直後に閏日挿入が行われ、翌年同日は4年のずれが解消されています。いっぽう3月1日は閏日挿入直後ですから、もう4年分戻っている状態になるのです。簡単に言い直すと「2月28日までは閏年に太陽位置ずれが最南」「3月1日以降は閏年に太陽位置ずれが最北」ということ。よく考えれば当たり前なのですが、青線と緑線の間隔は2月28日と3月1日の日没方位差に相当し、非閏年なら1日の差であっても、閏年は2日ぶんの差になってしまうわけです。

  • 日没方位角・閏日前後・つくば市

    F.茨城県つくば市
  • 日没方位角・閏日前後・那覇市

    G.沖縄県那覇市
  • 日没方位角・閏日前後・札幌市

    H.北海道札幌市


ダイヤ富士では富士山山頂仰角でこれらを考えなくてはなりません。大気の浮き上がりや蜃気楼などの影響もありますが、これらは基本的に仰角方向に影響しても、方位角のずれ幅を大きく変えるような効果は無いと見て良いでしょう。よほど至近距離で無ければ(山頂仰角が5°以下程度なら)日没方位角のずれ幅をそのまま富士山上辺に持ち上げて考えても差し支えないと考えられます。(※方位角そのものは変わりますのでご留意。)

もうひとつ、那覇や札幌の図と比べた違いが分かりますか?方位角の値も違うけれど、もっと影響がありそうなのは「ずれ幅の違い」。上で影響無いと言ったばかりのずれ幅、実は観測地の緯度を変えるとかなり変化するのです。グラフを重ねてみれば、沖縄 < つくば < 札幌の順に「高緯度ほど日没方位のずれ幅が大きい」と分かるでしょう。「春分・秋分のころ遠方からダイヤモンド蝦夷富士を定点撮影する場合、年ごとの位置修正が大きくて難しい」と言えるかも知れません。どうしてこうなるか、ぜひ考えてみてくださいね。

必要移動距離(富士山対象)
参考までに、近距離移動で遠くの太陽方位が変わらないものと仮定したとき、地平近くに見える富士山の方位角を0.5°(=およそ太陽視直径相当)変えるため地表に沿ってどれくらい移動したら良いか計算しておきました(右図/実際に300km先から富士山が見えることはほぼ無い)。当然ながら富士山までの距離によって変化しますが、最遠観察地でもせいぜい数キロ程度の移動で済みそう。左下は国土地理院サイトの地理院地図で描いた「富士山からの等距離円」。間隔は50kmです。富士山までの距離を見積もっておきましょう。測地距離と方位角を正確に計算したければ、同じく国土地理院の計算ページがとても便利。

富士山中心等距離線・50km間隔
関東と同緯度付近なら日没方位角の前年差がもっとも大きい「閏日をはさんだ春分・秋分の頃」でも最大0.38°程度なので、100km圏内なら800m未満、200km圏内なら1.5km未満の移動調整で済みそうですね。また日没方位角の前日差も同様に春分・秋分のころ最大0.5°程になるため、「今日は曇ったけど明日なら…」と言うケースでも移動範囲を限定した上で富士山が見える場所を探せば、ダイヤ富士ポイントを探し当てられそうです。多少の誤差を承知の上で大雑把に言うと「ダイヤポイントが閏日などで少しずれた場合、対象地物までの距離を1/100した半径範囲内にベストポイントがある」と言えるでしょう。これは「太陽や月の像はレンズ焦点距離の約1/100に写る」という知識にうまくリンクするから覚えやすいですね。くれぐれも移動の南北方向を間違えませんように!ほかの地物でもある程度は目安になると思います。ご活用ください。

  • 記事内の計算は自作プログラムによる概算値です。なるべく正確になるよう心掛けていますが、国立天文台「暦計算室」での結果に対して最大0.001°程度の計算差があります。ご容赦ください。
  • 地球を回転楕円体(GRS80)としています。ジオイド高は考慮しません。
  • 方位角は大気の影響を考慮しています。理想状態での計算値のため、実際とは微少に違います。


参考:※下記地図は閏日補正をしていない概略図です。
ユーティリティ:ダイヤモンド富士山マップ(冬至→夏至) ※12月21日から6月21日まで
ユーティリティ:ダイヤモンド富士山マップ(夏至→冬至) ※6月21日から12月21日まで
ユーティリティ:ダイヤモンド筑波山マップ(冬至→夏至) ※12月21日から6月21日まで
ユーティリティ:ダイヤモンド筑波山マップ(夏至→冬至) ※6月21日から12月21日まで


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