岩本彗星を狙うも強風に阻まれる2020/02/04

20200204岩本彗星(C/2020 A2)
昨日は午後から曇り、夜半過ぎまで続きました。ところが日付が今日になり月が沈んだ2時ごろ外へ出てみると見事に快星!時間は少ないですが、岩本彗星(C/2020 A2)なら間に合うかも知れないと急きょ機材を組みました。気温が高かったものの湿度は50%まで落ち、透明度が良い夜空です。

なんとか彗星を捉えて撮影開始した頃から風が吹き始めました。通常は明け方に向かって凪がやってくるのに、強まる一方です。そよ風程度なら何とかなるけれど、3m/sを越すようになるとさすがにねぇ。1時間粘ったものの、色々なものが吹き飛ぶ程になってしまい、途中で断念。星像も踊りまくっていました。どうにか点像に見えるコマを何枚か選んで仕上げたのが左画像です。

間もなく満月期がやって来て明け方の淡い天体撮影が難しくなるため、貴重な晴れ間だったのですが…。まぁ撮れたから良しとしましょう。

今週の月面Aは極めて貴重な好条件2020/02/04

20161014月面A
今月初めに見ることができた月面Xと月面LOVEが好条件だったことは記憶に新しいですが、三日後の2月7日に見える月面Aは更に好条件であることをご存じでしょうか?「まだ見たことがない」「今まで何度か見たけどはっきりしなかった」という方は、ぜひこの機会を逃しませんように。

X地形ほどは人気のない月面A。なかなか見えないというお話しをあちこちで耳にします。私自身も見え辛いなぁと度々感じます。

月面Xと月面Aの地形比較
X地形よりずっと小さいためかなとも思いますが(右図参照/同縮尺の正面図比較)、面白い形だから、なんとか多くの方に楽しんでほしい。

周囲の方々の見えない理由をじっくり伺うと、大きく次のふたつに分かれるようです。

  • 理由1:場所が特定できない。
  • 理由2:場所は分かるが、良い観察条件に巡り会えない。

理由1なら、何度も何度も見て練度を上げてゆく他に近道はありません。大きいクレーターや海、山脈の配置などをしっかり覚え、徐々に細かいクレーターを判別し…と言う具合に“王道”を進むのがベストと思います。文字地形は明暗境界の観察なので「見え始めがとても暗い」「周囲から位置を把握するのが難しい」等も注意点。該当位置を探すのに当てにしていた周囲のクレーターがそもそも見えない…なんてことが起きるんです。月面XやAの予報日にX地形やA地形だけしか見ない方が結構いらっしゃいますが、それではちっとも地形配置が覚えられませんし、なにより貴重な月面観察チャンスがもったいない。周りには文字地形以上に興味深い場所や、由緒あるのに言われなければ一生見ないだろう地物がゴロゴロしてるんですから、併せて楽しみましょう。

理由2の「良い観察条件」とはなんでしょうか?予測できない気象条件(天気やシーイングなど)は除外するとして、月面Aが見やすいためには以下の条件が挙げられます。

  • 条件1:予報時刻が夜間である。(昼間でも見えるけれど、コントラストが弱い。)
  • 条件2:月高度が高い。
  • 条件3:月の視直径が大きい(地球に近い)。
  • 条件4:月面中央経度がマイナス側に大きい。

条件1&2&3は他の文字地形でも同じなのですが、条件4はA地形ならではのもの。ここを掘り下げてみましょう。下A・B画像は2015年にA地形が見えた二回それぞれの月面です。7月のほうはかつてないくらい好条件、対して12月は見つけるのも困難なほど悪条件でした。ご覧いただきたいのはA地形そのものではなく、月全体の向きや欠け具合。不思議に思いませんか?同じ場所を見ようとしてるのに、こんなにも形が違うんですよ。

  • 20150730月面A

    A.2015年7月30日
  • 20151224月面A

    B.2015年12月24日


秤動比較
月が上下左右に少し首を振っている「秤動」をご存じでしょう。振れ幅は経度・緯度ともプラスマイナス10度未満。月面の真ん中近くにあるX地形などは秤動がどんな値でも端っこに寄ったりしません。でも、地球から見たA地形は西端(北極を上にしたとき左端)近くにあるため、秤動のうち経度方向の影響をもろに受けるんですね。これはオリエンタレ盆地やスミス海など、西や東の縁ギリギリあるいはほぼ裏側に位置する地形を観察するときも同様な悩みとなるでしょう。(※豆知識:今年はオリエンタレ盆地観察最適年でもあります。)

上のふたつの月を自作ソフトで図化したのが右画像。月の向きが分かりやすいように、主なクレーター位置と中央子午線(青線)、赤道(赤線)、月面中央(オレンジ+印)を描き込みました。中央子午線と赤道は地球と同様に考えることができ、青線より右がプラスの経度(東経)、左がマイナスの経度(西経)、赤線より上がプラスの緯度(北緯)、下がマイナスの緯度(南緯)です。

記事最初の画像のように、月面Aは巨大なグリマルディ・クレーターからたどれます。2015年7月のグリマルディ位置に対して、同年12月のグリマルディは秤動によってかなり端近くですね。グリマルディよりもっと左側に位置するA地形が見え辛くなるのは当然と言えましょう。(注:毎年こうなるわけではありません。これはあくまで2015年の事例です。)

どんなとき見やすいか整理すると「青線がオレンジ+印よりも右へずれるとき」、言い換えると「月面中央経度がマイナスのとき」という前述の条件4になります。赤道位置はあまり影響しないので中央緯度を気にする必要はないでしょう。(※中央緯度が影響するのは北極や南極を観察するときです。)予報日時が満月から遠いほど見やすい=上A画像のように左の欠け幅が大きいときは見やすい…と言うこともできるでしょう。

試しに1981年から2040年まで計算すると、月面Aが地球のどこかで見頃を迎えるチャンスは全部で742回。この中で前述の条件に従って「日本の夜間、月面中央経度が-5.0°以下かつ月高度が60°以上」に起こるケースのみ拾い出すと、下記の6回しか残りませんでした。(括弧内数値は中央経度と地心距離。)

  • 2003年1月16日 23:16(-5.21° , 388296km)
  • 2009年11月30日 22:46(-5.45° , 374654km)
  • 2010年12月19日 21:24(-5.16° , 384572km)
  • 2020年2月7日 23:28(-5.77° , 369096km)
  • 2021年2月25日 21:54(-6.02° , 378542km)
  • 2029年1月28日 20:25(-5.87° , 374660km)


計算は自作プログラムにより、月面Aにおける太陽高度が-1.0°になる日時としています。また観察場所は当ブログ基準の茨城県つくば市設定ですが、国内ならどこでもだいたい一緒です。なお時期が冬場に集中しているのは「月面Aは満月直前」「満月前後の月が高く見えるのはその時期に赤緯が高くなる冬」ということから類推できますね。(→2019年3月26日記事のグラフ参照。)この中で条件3を満たす、つまり、もっとも地球に近くて大きく見えるのは今週の月面Aなのでした。来年2月にも起こりますが今回より1万kmほど遠く、標準サイズに近い大きさです。

逆さ月面A
今週7日の月面Aは60年間でたった6回しかない好チャンスの中でも一番大きく見ることができる、極めてレアな最良条件なのです。さあ、見たい気持ちが湧いてきましたか?可能な方は上記時刻1時間前には存在が確認できますので、気温に慣らす意味でも早めに望遠鏡を向けてくださいね。撮影を通して地形を観察する方は4時間以上前(19時台)から出現の様子を追ってみてください。(※月面上では1時間当たり太陽高度がおよそ0.5°変化します。)ただし子午線を通過するので望遠鏡の向きにご注意!

予報時刻より少し遅いと、A地形にくっついているリチオリC・クレーターが見え始め、「ダブル富士(逆さ富士/鏡富士)」ならぬ「ダブル月面A」のようにも見えます(右画像/冒頭画像の南北を逆さにしてあります)。今回のようなチャンスは月面のベテランにとっても貴重なはずで、より詳しい観察が期待できます。当日晴れることを祈りましょう。

参考:
アーカイブ「月面の観察」……月面A予報日時や解説などはこちらをどうぞ