中秋の小さい名月 ― 2019/09/13
児童・幼児の福祉教育に長く関わってきた都合で、我が家には読み聞かせ用の絵本がたくさんあります。絵本には空や星、月をモチーフにしたものが少なからずありますが、「はらぺこあおむし」などで有名なエリック・カールさんの絵本、「パパ、おつきさまとって!」はお気に入りのひとつ。ちょっとした仕掛け絵本ですが、ご存じでしょうか。
エリックさんが娘にせがまれた体験に基づく創作童話になっており、肩車しても届かないお月様にパパは思いも寄らぬ方法で…、おっとネタばらしはいけませんね。ぜひ図書館などでお読みください。
明日9月14日は満月を迎えます。中秋の名月は今夜13日なので、タイミングとしてはまぁ一緒と言えば一緒…。ただ、満月や新月など厳密には「瞬間の状態」を指します。詳しい天文カレンダーには13:33頃と時刻まで書いてあり、日本では地面の下になって全く見えません。名月は満月前の14日明け方に沈み、また14日夜に登る月は満月を過ぎています。日本にいる限り今月の満月は見えないのです。
「満月の瞬間」に月が観察者上空に見えないことは良くある話で、当ブログでも度々ネタにしました。今年起こる12回のうち日本から見えるのは4回しかありません。(毎年こんなもんです。)月面Xなど観察可能時間帯が限定的な現象も全く同様で、毎月見える訳ではなく、せいぜい年間3、4回という同じ結果になるでしょう。また、今回の満月は「今年最小」でもあります。「見かけが小さい」というのは「対象までの距離が遠い」ことと同等。回りくどく言うと、
という手順を経ているわけです。でも私たちが地心から月を観察することはありえません。地心基準での大きさ比較って、冬服着たまま体重比較したり、靴や帽子を付けたまま背比べをするような「きな臭さ」を感じませんか?たとえば富士山の頂上から見た月は、平地からの月より大きいはず。エベレストならもっと大きい。飛行機やロケットで高く上がれば更に大きい。(地面離れるとズルいかな?)無論この差を地球圏内で人間が感じることは無理ですけど、肉眼で知覚できなくても良いから、実際に見ている真実の大きさを比べたいという思いが湧くのではないでしょうか。
「測心基準」つまり観察者がいる地球表面のどこかに原点を定めて月を見た場合、地心基準に対して最大で地球直径ぶんの距離差が生じます。地球直径は月までの距離の3%もありますから、さすがに無視できません。地心と測心それぞれで満月の最大最小を描くと、右画像の通りかなり差が出ることが分かります。例えば日食計算、ISSの月面通過、接食掩蔽などは、地球表面の標高は元より「月軌道中心が地球中心からずれてる」ところまで気にして厳密に計算しないと正確な予測が出ないでしょう。実際に見ている月が本当に最大か最小かは測心基準で順位を付ける必要があるんじゃないか、というのがこの記事の主張です。(※でもそうすると各観察地ごとに天文年鑑が必要。)
1900年から200年間に起こる全ての満月(計2474回)を測心基準(当ブログ基準の茨城県つくば市で計算)で小さい順に並べると、今回の満月は「11位」という好成績(→参考:アーカイブ:大きい満月/アーカイブ:小さい満月)。日本の至るところで計算してもだいたい同様と思います。測心基準でも小さいと言うことは、前述の「満月の瞬間が見えない」ことと少し関係します。
例えば満月の瞬間が真夜中0時JSTだった場合、標準子午線135度上で月が天頂に輝く位置にいる観察者Pさんは、他のどの人よりも月に近いでしょう。またPさんの対蹠点(たいせきてん/緯度経度が反対/地心をはさんで反対の地点)にいるQさんは、月から地球直径ぶん離れるため、(地面の真下なので月は見えないけれど)他の誰よりも遠いことでしょう。左上図は緯度方向のずれを考慮せず描いていますが、おおよそのイメージはつかめると思います。またこの図の様に、厳密には地心基準満月と測心基準満月では時刻が少し異なりますのでご注意。今回は深く突っ込みませんが、黄経差で考えた満月と赤経差で考えた満月とでも日時や距離が異なり、順位に影響を及ぼします。
図を見れば一目瞭然ですが、実際に見える満月の直径が大きいのは「南中時に満月を迎える」ケースに集中し、満月の直径が小さいのは「極下正中(→wiki)時に満月を迎える(もちろん月は見えない)」ときが多いです。前述200年間で9位の大きさを誇った今年2月の満月(今年最大/冒頭画像)は、測心だと1:00頃、地心でも0:53頃と真夜中に近くて理想的でした(下表参照)。満月の大きさを決めるのは「楕円軌道のどこで満月になるか」ということが主原因ですが、それだけではないよ、ということを知った上で眺めると違った視点が味わえるでしょう。
小さい子と一緒に月を見ると、不思議なことに抱っこをせがむ子が少なからず現れます。木の実を獲るがごとく、月にも近づけると本能的に感じるのかも知れません。科学本ではないけれど、エリックさんの絵本はとても示唆に富んでいるなぁと感心するところです。
エリックさんが娘にせがまれた体験に基づく創作童話になっており、肩車しても届かないお月様にパパは思いも寄らぬ方法で…、おっとネタばらしはいけませんね。ぜひ図書館などでお読みください。
明日9月14日は満月を迎えます。中秋の名月は今夜13日なので、タイミングとしてはまぁ一緒と言えば一緒…。ただ、満月や新月など厳密には「瞬間の状態」を指します。詳しい天文カレンダーには13:33頃と時刻まで書いてあり、日本では地面の下になって全く見えません。名月は満月前の14日明け方に沈み、また14日夜に登る月は満月を過ぎています。日本にいる限り今月の満月は見えないのです。
「満月の瞬間」に月が観察者上空に見えないことは良くある話で、当ブログでも度々ネタにしました。今年起こる12回のうち日本から見えるのは4回しかありません。(毎年こんなもんです。)月面Xなど観察可能時間帯が限定的な現象も全く同様で、毎月見える訳ではなく、せいぜい年間3、4回という同じ結果になるでしょう。また、今回の満月は「今年最小」でもあります。「見かけが小さい」というのは「対象までの距離が遠い」ことと同等。回りくどく言うと、
- 今年の満月だけピックアップして調べると9月のケースが地球から一番遠い。
- 9月のお月様は毎日遠いわけではなく、地球を一周する約1ヶ月に発生する遠近のうち、いちばん遠い辺り(遠地点付近)で満月になる。
太陽中心から黄道に沿って測り、月の黄経が180°に達した時を満月と定める
→満月になった瞬間の、地球中心と月中心の距離を算出
→月の平均直径を元に視直径(見かけの大きさ)を算出
→年間あるいは特定の期間で視直径比較し、最大最小を決める
という手順を経ているわけです。でも私たちが地心から月を観察することはありえません。地心基準での大きさ比較って、冬服着たまま体重比較したり、靴や帽子を付けたまま背比べをするような「きな臭さ」を感じませんか?たとえば富士山の頂上から見た月は、平地からの月より大きいはず。エベレストならもっと大きい。飛行機やロケットで高く上がれば更に大きい。(地面離れるとズルいかな?)無論この差を地球圏内で人間が感じることは無理ですけど、肉眼で知覚できなくても良いから、実際に見ている真実の大きさを比べたいという思いが湧くのではないでしょうか。
「測心基準」つまり観察者がいる地球表面のどこかに原点を定めて月を見た場合、地心基準に対して最大で地球直径ぶんの距離差が生じます。地球直径は月までの距離の3%もありますから、さすがに無視できません。地心と測心それぞれで満月の最大最小を描くと、右画像の通りかなり差が出ることが分かります。例えば日食計算、ISSの月面通過、接食掩蔽などは、地球表面の標高は元より「月軌道中心が地球中心からずれてる」ところまで気にして厳密に計算しないと正確な予測が出ないでしょう。実際に見ている月が本当に最大か最小かは測心基準で順位を付ける必要があるんじゃないか、というのがこの記事の主張です。(※でもそうすると各観察地ごとに天文年鑑が必要。)
1900年から200年間に起こる全ての満月(計2474回)を測心基準(当ブログ基準の茨城県つくば市で計算)で小さい順に並べると、今回の満月は「11位」という好成績(→参考:アーカイブ:大きい満月/アーカイブ:小さい満月)。日本の至るところで計算してもだいたい同様と思います。測心基準でも小さいと言うことは、前述の「満月の瞬間が見えない」ことと少し関係します。
例えば満月の瞬間が真夜中0時JSTだった場合、標準子午線135度上で月が天頂に輝く位置にいる観察者Pさんは、他のどの人よりも月に近いでしょう。またPさんの対蹠点(たいせきてん/緯度経度が反対/地心をはさんで反対の地点)にいるQさんは、月から地球直径ぶん離れるため、(地面の真下なので月は見えないけれど)他の誰よりも遠いことでしょう。左上図は緯度方向のずれを考慮せず描いていますが、おおよそのイメージはつかめると思います。またこの図の様に、厳密には地心基準満月と測心基準満月では時刻が少し異なりますのでご注意。今回は深く突っ込みませんが、黄経差で考えた満月と赤経差で考えた満月とでも日時や距離が異なり、順位に影響を及ぼします。
図を見れば一目瞭然ですが、実際に見える満月の直径が大きいのは「南中時に満月を迎える」ケースに集中し、満月の直径が小さいのは「極下正中(→wiki)時に満月を迎える(もちろん月は見えない)」ときが多いです。前述200年間で9位の大きさを誇った今年2月の満月(今年最大/冒頭画像)は、測心だと1:00頃、地心でも0:53頃と真夜中に近くて理想的でした(下表参照)。満月の大きさを決めるのは「楕円軌道のどこで満月になるか」ということが主原因ですが、それだけではないよ、ということを知った上で眺めると違った視点が味わえるでしょう。
小さい子と一緒に月を見ると、不思議なことに抱っこをせがむ子が少なからず現れます。木の実を獲るがごとく、月にも近づけると本能的に感じるのかも知れません。科学本ではないけれど、エリックさんの絵本はとても示唆に富んでいるなぁと感心するところです。
【参考:様々な基準設定による2019年の満月比較】
地心黄経差による満月 | 測心黄経差による満月 | 地心赤経差による満月 | 測心赤経差による満月 |
---|---|---|---|
1月21日 14:16 357722km | 1月21日 13:25 360927km | 1月21日 14:08 357729km | 1月21日 13:32 360866km |
2月20日 0:53 356850km | 2月20日 1:00 351138km | 2月19日 23:05 356812km | 2月19日 22:35 351168km |
3月21日 10:43 360770km | 3月21日 10:41 365404km | 3月21日 7:21 360476km | 3月21日 8:30 363616km |
4月19日 20:12 368586km | 4月19日 18:30 367742km | 4月19日 16:49 368119km | 4月19日 15:31 371020km |
5月19日 6:11 378795km | 5月19日 7:19 382075km | 5月19日 4:25 378506km | 5月19日 5:57 380204km |
6月17日 17:31 389561km | 6月17日 16:05 392636km | 6月17日 17:23 389542km | 6月17日 15:59 392721km |
7月17日 6:38 398902km | 7月17日 8:03 403124km | 7月17日 6:25 398877km | 7月17日 7:47 402816km |
8月15日 21:29 404931km | 8月15日 20:55 402418km | 8月15日 19:18 404809km | 8月15日 17:39 405924km |
9月14日 13:33 406247km | 9月14日 13:19 411438km | 9月14日 9:17 406310km | 9月14日 9:59 411512km |
10月14日 6:08 402370km | 10月14日 7:49 404838km | 10月14日 1:45 402740km | 10月14日 3:12 399583km |
11月12日 22:35 393974km | 11月12日 22:20 388332km | 11月12日 20:17 394293km | 11月12日 18:43 391927km |
12月12日 14:12 382862km | 12月12日 13:34 385798km | 12月12日 13:57 382903km | 12月12日 13:17 386006km |
- 自作プログラムによる計算です。時間の秒の桁に計算誤差があるため、四捨五入したとき分の位に誤差が含まれます。
- 各欄には満月の瞬時および月までの距離を掲載しました。距離は、地心計算の場合は地心距離、測心計算では測心距離(観測地から月中心までの距離)としています。
- 一般には「太陽と月の地心黄経差が180°になった瞬間を満月」と定義しますが、この表は他の基準で計算したらどうなるかという参考例として作りました。
- 測心の基準は当ブログ基点の茨城県つくば市です。