春と秋で同時刻の太陽位置が同じ日はいつ?2019/03/22

アナレンマ
『一年のうちで、同時刻の太陽位置がほぼ一致する日が春と秋にあります。それはいつでしょうか?ただし太陽の1日内の公転は無視して良いことにします。』

この質問に「春分と秋分」と答えたくなる方は多いと思うのですが、それは間違い。確かに春分と秋分の太陽は空のほぼ同じルート(天の赤道)を通りますが、各日の「同時刻」に観察すると天の東西方向(赤経方向)に差が出てしまうのです。両日の日の出・日の入り時刻を調べれば明らかに違うので、このことはすぐ分かるでしょう。

左上はStellariumで描いた太陽の振る舞い。日本の標準子午線が通る兵庫県明石市付近で元日から10日おき各12:00に太陽を見た設定です。同一時刻の太陽はこのような細長い8の字を描くことが知られ、これをアナレンマと呼びます。冒頭の質問を少し改変すると次の様になるでしょう。

『アナレンマのなかで、8の字がクロスする日はいつでしょう?』

アナレンマ図・つくば
8の字がクロスする日を直感で「春分と秋分」と思ってしまう心理はものすごく理解できます。「両日とも真東から日が登り、真西に沈む」「昼と夜の時間が同じになる」と言った理解が「同じような日になるのは、同じ時刻に同じ位置を通るから」という誤解を生むのですね。ここがこの問いの落とし穴。実際は前述した通り春分でも秋分でもありません。少し詳しく見てみましょう。

右図は毎正時毎の太陽方位・高度を示したアナレンマ図。当ブログ基準の茨城県つくば市で計算・描画しました。例えば毎日12:00に太陽を見たらピンクの矢印の向きに少しずつずれてゆきます。赤点は二十四節気ごとの位置で、二分二至はひとまわり大きな赤点。春分と秋分がずれていることは一目瞭然でしょう(→関連記事)。細長い8の字型は正午に限らず、他時刻でも、世界のどこで観察しても同様ですが、傾斜の具合や見える高さは時刻や観察場所によって変化します。

冒頭の質問は「夏至前と夏至後とでアナレンマ図のクロスポイント(点A)に一番近い日はいつか?」ということ。Aの位置ならば、同時刻の太陽位置が一致するでしょう。この日に特別な名称があるかどうかは知りませんが、図から推測すると春分を20日ほど過ぎた頃と、秋分の20日ほど前の頃が該当日だと見当が付きますね。

【正午の太陽位置がほぼ一致する日】
太陽位置差
2015年4月13日8月31日0.1150°
2016年4月12日8月30日0.0836°
2017年4月12日8月30日0.2462°
2018年4月12日8月30日0.4224°
2019年4月13日8月31日0.1397°
2020年4月12日8月30日0.0618°
2021年4月12日8月30日0.2252°
2022年4月12日8月30日0.3939°
2023年4月12日8月30日0.5707°
2024年4月12日8月30日0.0450°
2025年4月12日8月30日0.1958°

  • 計算は茨城県つくば市での値です。
  • 高度と方位は計算位置によって変化しますが、各日付による位置差は日本のどこで計算してもほぼ一緒です。
  • 計算は自作プログラムによります。
2015年から2025年で観察時刻を正午に設定し、具体的にプログラムを組んで計算すると右表のようになりました。8月はまだ秋じゃないかも知れませんが、立秋を過ぎてますから秋ということにしましょう。太陽位置差とは各日12:00時点の太陽中心ズレ幅を角度で表したもの。太陽直径は約0.5°ですから、ズレは最大でも概ね太陽一個分におさまっています。今年2019年の様子をステラナビゲーターでシミュレートしたので、下に掲載しておきます。(※方位角は北を0°として東回りに表しています。)

2019年太陽位置一致日


本当に同じになるかどうかは、実際に観察して確かめてみましょう。様々な方法を思い付くでしょうけれど、手っ取り早いのは日の差す窓に小さなシールを貼り、併せてシールの影位置もマークする方法。時刻を決めて観察すると、右上表の日付で影位置がほぼ一致するでしょう。正午以外だと、厳密には太陽の公転移動で微妙に位置差が変化しますが、冒頭質問で「太陽の1日内の公転は無視して良い」としてますので、朝でも夕方でもだいたい似た結果と見なせます。この日が何かのためになるとは思えませんが…こんな不思議な日があるんだなぁというお話しでした。

【余談】
「春分と秋分だけ日が差し込む隠し部屋がピラミッド内に見つかった」などの話をたまに耳にします。本当なのか都市伝説なのかは横に置くとして、もし事実だとしても「日が差す時刻は異なる」ということが上の記事から分かると思います。適当に斜めの細穴を掘っただけでも、日時さえ気にしなければ春と秋に各一回ずつ太陽光が通る(春に日が差すなら必ず秋も日が差す)ことも分かるでしょう。この手のお話しは「当時の加工技術精度はどれほどだったか」「日が差す角度や時刻を気にしたか(測ることができたか)」など様々な観点で分析する必要があります。もし上記の「アナレンマ・クロスポイント」のみ日が差すような隠し部屋が見つかったら「春分と秋分」よりもよほど高度な文明と言えそうなのでビックリなんですけどね。


参考:
日出没・暦関連の記事(ブログ内)


コメント

トラックバック