ウィルタネン彗星最接近まで二ヶ月!2018/10/18

ウィルタネン周期彗星光度
今年日本で観測可能かつ明るくなる彗星の中で、肉眼で見えるかも知れない唯一の彗星、それがウィルタネン周期彗星(46P)です。光度のピークまで、あと60日を切りました。

10月中旬現在はくじら座の更に南側にある「ろ座」という星座に輝き、既に10等より明るく観測されているようです。なかなか晴れませんが、私も9月中旬以降2回ほど撮影しました。いかんせん向こう一ヶ月は南に低いため、街中の光害に埋もれてしまうのが残念なところ。ろ座は「炉座」と書き、火をくべて物を熱する炉のこと。南天低い星座で、秋空唯一の1等星フォーマルハウトを有する「みなみのうお座」から東へ「ちょうこくしつ座」「ろ座」の順にほぼ同じ高さに南中します。

彗星の光度予測は難しく、様々なモデルに沿った予報がいくつか出回っています。星仲間である吉田誠一氏の予想によると左上図の青線グラフのようになります(日時はJST)。彗星が安定している場合、明るく見える条件は「太陽に近いこと」と「地球(観測者)に近いこと」の兼ね合いになりますが、両条件が重なることはなかなかありません。ウィルタネン彗星はこの差が4日ほどしか無いため、相乗効果が期待できます。グラフ中の全光度と核光度については、記事末の囲みを参考にしてください。

具体的な数値を挙げると、太陽中心に最接近する「日心距離最小」は12月13日7:20頃で、距離1.05535天文単位(=1.57878億km=410.71LD)、地球中心に最接近する「地心距離最小」は12月16日22:04頃で、距離0.07745天文単位(=1158.6万km=30.14LD)。LDとは月−地球間平均距離を1とした単位ですが、30LDまで地球に接近した彗星は過去知られている彗星のなかでも20位、近年50年に限ると10位という近さ。これはもう今から楽しみですねぇ。

下にステラナビゲーターによる2019年元旦までの星図を掲載しました。各日0:00JSTの位置です。一番明るくなる頃は上弦の月明かりがあります。でもプレアデス星団(すばる)に大接近しますから、おうし座のこの星団がすぐ探せる空なら肉眼や小型双眼鏡のみで彗星を探し出せるかも知れません。(※快星夜なら、東京都内でも直射光さえ遮ればプレアデス星団が肉眼で見えます。かつて都内勤務だった私が毎晩見てましたから。)北上するまでの期間はめぼしい輝星がないため、くじら座やエリダヌス座をじっくり探し慣れておく良い機会です。ちなみに長周期変光星/脈動変光星で有名なくじら座ミラの極大も12月頃、更にはふたご座流星群の極大も12月14日頃ですから、全部まとめて楽しんじゃいましょう。「肉眼彗星」と騒がれても、実際に肉眼で確認できるほど明るくなるケースは本当に稀ですから、周到に準備して観察に臨んでくださいね。

  • ウィルタネン周期彗星位置1

    10月から11月末
  • ウィルタネン周期彗星位置2

    12月上旬


  • ウィルタネン周期彗星位置3

    12月中旬
  • ウィルタネン周期彗星位置4

    12月下旬


彗星の光度
【光芒が広がっている天体の光度】
1等星の彗星は1等星の恒星のように輝くわけではありません。彗星のようにぼんやり広がる天体の光度は恒星のような点光源と明らかに違います。彗星頭部に広がる明るい部分は「コマ」と呼ばれ、カラー撮像すると右例の様に概ね緑系の色に写りますが、眼視では色の無い薄暗い光芒に感じるでしょう。一般に彗星の光度とはコマまで含めた全体の明るさ「全光度」を指します。対して頭部の彗星本体(核)のみの明るさは「核光度」と呼ばれます。全光度は核光度も込みの光度ですから、核光度が全光度を上回ることはありません。発達した尾がコマに重なって明るく見える場合もあります。

彗星観測者が全光度を測るときも直接恒星とは比較できません。そこで様々な方策を講ずるのですが、例えば「近くの恒星のピントをコマと同じくらいぼかし、ぼかさない彗星とぼかした恒星の明るさを比べる」など世界共通の方法が幾つか考案されています。ところが、コマがどこまで広がっているかを判断するのは難しく、空の良し悪しはもちろん、機材のコンディションや観測者のキャリア、体調に至るまで影響があります。特に今回のように大接近する彗星はコマがかなり大きいので、観測者・観測地によってばらつきも大きくなるでしょう。それはともかく、地球に接近して大きく見える彗星はコマ視直径が10′を下回ることはまず無いので、手頃な恒星を満月視直径の半分程度(約15′=約0.25°)にぼかせば大雑把な彗星イメージを掴めるわけです。右上例の41Pなどはまさにそうでした。

ウィルタネン彗星と恒星光度
記事最初のグラフ通りに明るくなるとすれば、全光度ピークは3等星前半くらいですね。左に最接近頃の彗星周囲にある恒星光度図を掲載しました。もしピントをぼかせる双眼鏡や望遠鏡をお持ちでしたら月がどれくらいの大きさに見えるか確かめてから、3等から4等のめぼしい星を選んで月直径の半分程度までぼかしてみてください。だいぶ暗くなることが分かるでしょう。

肉眼の場合「ぼかす」という動作は難しいのですが、例えば料理用透明ラップをシワにならないよう丁寧に半分の半分の半分に畳み、ラップ8枚越しで恒星を眺めるとかなり彗星実視イメージに近くなります。2等星くらいまでは存在が分かりますが、3等星以下になると空の良し悪しにかかわらず認識しづらくなるでしょう。これが彗星の全光度というものなのです。彗星や星雲、銀河の観察では光度の数値に過度の期待をしないよう、事前にこうした予備体験を積み重ねてください。


参考:
ウィルタネン周期彗星(46P)に関係する記事(ブログ内)

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