標高データで月面図を描いてみました・その22018/10/13

月面X地形周辺
いくつか自分の中で進めているプロジェクトに関して、時々星図や月面図などの素材が必要になる事があります。たいていはどこにもないような絵面なので自作するしかありませんが、それ自体がまた深い分野。追求してゆくと深みにはまって、なかなか面白いです。

左はそんな月面図のひとつ。月面X地形を中心とした10°四方のエリアです。写真ではなく、NASAが公開しているLRO(Lunar Reconnaissance Orbiter)による標高データを使ったCG。どうやったら地形のデコボコがはっきりするだろうかと、地図表現を何十通りも組み合わせて試しましたが、結局思考は一周巡って傾斜量図メインに落ち着きました。ただし段彩図と陰影図も掛け合わせて直感的に高さが分かるよう表現してあります。中緯度なので直交座標地図では歪みが大きいですが、標高や傾斜の表現追求が差し当たっての目標なので、ここでは気にしないでください。

下A図は左上図の中央付近を拡大し、等高線を加えたもの。下B図は同様に描いた月面A地形の周囲です。いささか書き込み過ぎの面はありますが、「こんな事できるよ」というサンプルなのでご容赦ください。赤線は500mごと、暗青細線は100mごとですが、小さなクレーターなのに深さ数千m以上ある等たちどころに分かっちゃって面白いですね。デコボコがはっきりするとクレーターの重なり順も鮮明に分かるので「全部のクレーターの生成順を調べたら家系図のようになるだろうか?」などと妄想が膨らみます。うまく計算できるなら、グレージング(接食掩蔽)現象で抽出できた山が月面のどの部分かといった特定もできるんじゃないでしょうか。

今回はハワイ大学の高機能ソフト「GMT(Generic Mapping Tool)」を利用しました。地理情報を伴ったデータを扱う研究者にはとりわけ有名ですが、地図描画は元より、科学的なグラフ作図やデータ処理になくてはならないフリーソフトです。当サイトでも地震分布図などを中心に時々登場していますよ。月面データとの親和性も抜群で、GMTで地球地図を描ける方なら何の問題もなく月面図を描けるでしょう。いずれ時間を作って、主だった月面地形図をアーカイブできたらと考えています。

  • 月面X地形周辺

    A.月面X地形周辺
  • 月面A地形周辺

    B.月面A地形周辺


【地図の標高表現】
地図表現のうち、標高を色彩・濃淡に置き換える「段彩図」、一定条件の光を当てたとき標高に応じてできる影を色彩・濃淡表現した「陰影図」、および傾斜に応じて色彩・濃淡表現した「傾斜量図」それぞれの方法のみを使って月面X地形を描くと下のようになります。一長一短あるのがお分かりでしょうか。

  • 月面X・段彩図

    段彩図
  • 月面X・陰影図

    陰影図
  • 月面X・傾斜量図

    傾斜量図


【クレーター錯視】
よく知られた錯覚現象に「クレーター錯視」があります。下図は上と同じ月面X地形図ですが、(1)と(2)とはデコボコの上下が逆転して見える方が多いのです。(2)の画像は(1)を180°回転させただけです。もっと単純でプリミティブな陰影のほうが錯視は顕著に現れます。

一般に地形の陰影図は「左上方向から照らす」という暗黙の了解がありますが、これは陰影を見誤らないようにするためだとも言われます。地図表現ではこの誤解を増長しないよう、実際の太陽光に関係なく陰影を付ける必要が出てきます。現実の月は右からも左からも照らされ、上下方向も振れ幅があるにも関わらず、月面を望遠鏡でどんな向きに観察してもクレーター錯覚はほぼ起こりません。平面図にしたときのみ逆転して感じるケースがあるのですね。望遠鏡で月面観察し慣れている人ほど錯視も起こりにくいかも知れませんが、実に不思議な現象です…。

  • クレーター錯視

    クレーター錯視(1)
  • クレーター錯視

    クレーター錯視(2)
参考:
標高データで月面図を描いてみました(2017/05/18)
標高データで火星図を描いてみました(2017/05/26)

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