台風の強風域を考え直してみよう2018/10/05

20180610-1500台風5号
台風の多い国にいる私たちですから、台風の風特性をご存じの方は多いでしょう。星仲間のかすてんさんのブログでは今日の話題にugemさんによる「可航半円と危険半円」の解説をピックアップしていました。たまたま私も調べていたので、勝手にコラボ(?)して取り上げてみようと思います。

北半球で発達する台風は地上付近で中心に向かう左巻きの渦を巻きます。台風予報は強風域(平均風速15m/s以上)と暴風域(平均風速25m/s以上)とで作図されますが、よくみると台風中心に対して同心円でないことがしばしばありますね。そして多くの場合、東側から南側が広くなっているのです。(左図は気象庁サイトからの引用で今年2018年5号の例。)

移動する台風は渦巻きを作る風に台風自身が動く速度が加わり、進行方向に対して右側の風が強く、左側が弱くなると言われます。右側を危険半円、左側を可航半円と呼ぶ所以です。台風に伴う風の特性は前述のugemさんのサイトの他、気象庁サイトにも簡単な解説がありますが、右半円と左半円とでどれくらい差が出るかは台風の移動速度に依存します。2017年8月2日の記事で台風の移動速度を調べましたが、概ね15km/hから20km/hを中心に幅広い分布ですね。台風によっては移動速度が100km/hなどというのもあり、仮に渦巻きの風が50m/s程度でも、左半円では半分程度、逆に右半円は1.5倍にもなって鉄塔が倒れるほどでしょう。進行方向に対して強風域・暴風域の円が「右が広くなるように描かれる」のはこんな意味を持つわけです。

20180728-1500台風12号
間違えないでほしいのは、「東側=危険半円、西側=可航半円ではない」ということ。あくまで「進行方向に対して右側/左側」です。今年の12号(右図)のように関東から関西へ向かうようなケースもありますから、東西で判断するのは好ましくありません。右図では西北西に進む台風に対し、強風域・暴風域とも進行右側の北東方向が広がっていますね。

「危険半円の地域は注意しましょう」ということは一般常識なのですが…実はここからが本題。私自身は危険半円を高校で習いましたが、以降「台風進行のどちら側で強風だったか」という実際の統計資料を見たことはありません。「例外はないのか」「あるとしたら何が原因か」「どれくらいの頻度なのか」という疑問をずっと抱えていました。

危険半円の概念は理解できますが、あくまで机上論です。台風通過後にいくつかのアメダスを調べたことはありますが、全台風について全アメダスを調べるというのもなかなかしんどい…。そこで今回、「強風域・暴風域の偏り」に注目して統計を取ることを思いつきました。

  • 強風域の偏り方位

    A.強風域の偏り方位
  • 暴風域の偏り方位

    B.暴風域の偏り方位


20171023-0300台風21号
自作プログラムを組み、各台風について3時間ごとに記された気象庁ベストトラックを使い「進行方向に対する強風域・暴風域の偏り方位角」を全て計算。どちらの方向に広がってるか(≒風が強い領域はどちら側か)記録1件につき1ポイントで10°ごとに数え上げたグラフが上のA・B図です。これを見ると確かに90°前後が一番多いですね。しかしながら…可航半円側が広くなっているケースもゼロではありません。と言いますか、想像以上の多さでした。万が一「進行方向左側だから安心だ」などと思ってらっしゃる方がいるなら、考え直さなくちゃいけません。

20171023-0300地上天気図
近年日本に近づいた台風の例を挙げると、2014年19号(上陸)、2015年21号(接近)、2017年21号(上陸)などがあります。左図は2017年21号の例ですが、強風域・暴風域ともに進行方向に対して左が広くなっています。このときは台風の北西に強い高気圧があって(右・当日の地上天気図参照/気象庁の天気図に筆者着色)、等圧線間隔がとても狭くなっていました。台風は海の熱から得た台風自身のエネルギーだけでなく、周囲の気圧配置との関係によっても風域が変化することが分かる良い例です。なお南半球の場合左右が逆になるので、海外移住される方は気を付けたいところ。また風は立体的に動くため、地表面のみで完結するお話しではないことも留意すべき点でしょう。無論この半円は風のみの話であり、雲や雨の分布はまた異なります。

一般常識はそれとしてきちんと理解しつつも、例外や常識外れ、想定外の事態はどこにでも湧きます。たまにこうして統計を取りつつ理解を整理・修正してゆくことも大切でしょう。固定観念やネット検索で引っかかったことだけを頼りに突き進むと、ときどき身を危険にさらしますから。普段あまり注目されない「強風域の偏り」のお話しでした。

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