強烈な台風24号と多角形の目2018/09/26


  • 20180926-1030台風24号の目

    A.台風24号の目
    (2018年9月26日 10:30)
  • 20180926-1530台風24号の目

    B.台風24号の目
    (2018年9月26日 15:30)


自然界には驚くような形がたくさんありますが、そのひとつに「台風の目」があります。上の2枚は本日26日の台風24号(画像元:RAMMB)です。日中は可視バンドに写る雲が白く飛んでしまうし、赤外バンドは解像度があまり高くありません。そこで、気象衛星ひまわりの中でいちばん濃淡が見やすかった近赤外バンド6画像を掲載しました。更に雲のエッジが見やすくなるような画像処理をしたのが各画像の右部分です。

みなさんにはこの台風の目がどのような形に見えますか?あらためて見ると、意外にも目の壁が多数の直線で構成されていると分かるのではないでしょうか。少なくとも「真ん丸」のような綺麗な曲線ではありませんね。午前中のA画像と午後のB画像でも六角形から五角形、あるいはその逆に変わったような気もします。折り紙やリボンを折りながら巻いて作るバラ飾りのようです。

20170914-1700台風18号
全てではありませんが、時々こうした多角形の台風の目(Polygonal Eyewall)ができることは結構古くから知られていました。私自身も遅くとも90年代には興味を持って衛星画像を調べていたと記憶しています。難しい理屈はさておき、強く発達して目の中に細かな渦構造がある台風やハリケーンの場合、注意深く見ると多角形の目が発見できるでしょう。この小さな渦は専門用語で「メソ渦」(mesovortex/mesovortices)とも呼ばれます。

右は2017年台風18号の例(画像元:NICT)ですが、目の中にはっきりしたメソ渦が、少なくとも三つ発見できます。この影響で目の外壁が六角形に近づいていました。目の形は四角形から七角形くらいまでバリエーション豊かです。同じ原因かどうかは分かりませんが、アウターバンドも含めた台風全体の形が多角形になることもあります。そう言われると上の台風24号外周も六角形に見えませんか?

探査機カッシーニによる土星の六角渦
地球外の天体でも渦構造はたくさんありますが、多角形の渦で有名なのは土星の極渦(六角渦/Saturn's hexagon)でしょう。左画像はNASA・カッシーニサイトより引用しました。上の台風の例よりもずっと分かりやすくて形が安定しています。確か、探査機ボイジャーの時代から確認されていたと思います。とても明瞭な六角形なので、腕の立つアマチュア天文家なら地球からでも撮影できるほど。(例えばこの画像など。

20170305_M101
銀河のように巨大な渦で変わった形ができる可能性はあるのでしょうか?棒状の腕を持つ銀河……ハッブル分類で言うところのSBa、SBb、SBcといった形も実に不思議ですが、腕全体が多角形なのは見たことがありません。右画像の回転花火銀河「M101」などは腕の数本が直線的に折れ曲がってるようにも見えますが…。ある程度小さな渦でないとできない芸当なのでしょうか?どこまでも興味は尽きません。

ペーパークイリング
以前に児童館などで「ペーパークイリング」というクラフトを教えていたことがありました。細長い腰のある紙テープを巻いて1cm径程度の小さなユニットを作り(左画像のような感じ)、それを平面上で組み合わせながら大きな模様や動植物、風景などのイメージを作ってゆく手法です。(立体にすることもできます。)左のサンプルはいま即興で作ったものなので下手ですが、ペーパークイリングで検索すればたくさんのステキな作品に出逢えるでしょう。(右下はクイリング手法で時計の文字盤を飾った教え子の作品例。)

クイリング作品
この「小さな形が、ひとまわり大きな形を決めてゆく」という流れは、上述したメソ渦と台風の目との関係に共通するものがあるなぁと感じました。台風の場合は上下方向にも大気が動きますから全く同じではありませんが、緩いシンクロニシティがあるんじゃないかと考えられます。昔の駄菓子屋ではギュッと巻いた細い紙テープが平面最密充填構造のパッケージになって「クモの糸」の名で売ってましたね。忍者が目くらましに手からシュッと出す、あれです。あのパッケージも同様だったなぁと思います。

他にも、鉛筆立てにビッシリ鉛筆を押し込んだり、隙間なく楊枝入れに詰められた楊枝を見ると、例外なくハニカム構造になっている様子など、小さなユニットと大きな構造との関係性が共通の形態に落ち着く例は、至るところで見られますね。