星表データで星図を描いてみました(全天星図編)2018/04/29

宇宙望遠鏡ガイアによる銀河系恒星図
ヨーロッパ宇宙機関(ESA/European Space Agency)が4月25日に発表した銀河系の星図(左画像)は、心を奪われるほど美しいものでした。これは同機関が運用する探査機「ガイア」が測定したデータを元に作られたもの。いわゆる「写真」ではなく、恒星の詳細な位置データから再構築したという意味で、歴とした「星図」と言えましょう。

この図に使われた恒星は2014年7月25日から2016年5月23日の間に詳しい位置と明るさが観測されたもので、その数なんと17億個。一部は実距離や動きまで調べられています。これまで私たちがよく利用してきた高精度の「ヒッパルコス星表」を余裕で上回る規模ですね。今後様々な研究に利用されること間違いなしで、将来スターウォーズやスタートレックみたいな宇宙大航海時代がやって来たら、その礎ともなるでしょう。これを報じたニュースでは「立体星図」のように表現されていましたが、時間軸も併せた「4D星図」のほうが適切かも知れません。この画像はESAサイトに大きなものもありますから、ぜひ堪能してください。

この上画像、実は2016年9月に11億個の段階でファーストリリースがありました。そのときちょっとした違和感を覚えたのですが、たいして調べもせず忘れていました。今回せっかくの機会なのでよくよく眺めたら、星座を探そうとしてもなぜか見つかりません。小一時間見ていたら理由が分かりました。この画像は「恒星の明るさの表現を抑えてある」のです。ふつう星図は明るい星を大きく、暗い星を小さく描きます。投影式プラネタリウムでも恒星像1個1個の明るさを変えられないので、面積を使って明暗を表現します。ところがガイアの画像は星々の明るさをだいたい一定にしてあるようで、これが違和感の正体でした。

所々に1等星のように見える光点は1個の恒星ではなく「球状星団」でした。あちこちに散開星団もあります。例えば左には二重星団やぎょしゃ座のM36・M37・M38があり、右上にはプレセペ星団がありますね。中央やや上にはアンタレス近くの暗黒星雲もあり、見慣れている方にはすぐ分かるでしょう。星団の位置が分かれば空全体の位置関係がだんだん理解できます。

赤道座標系星図

A.赤道座標系星図

黄道座標系星図

B.黄道座標系星図

銀河座標系星図

C.銀河座標系星図
この星図には更に「座標系」および「投影法」というふたつの混乱要素がありました。私たちが天体観察に使う星図はほぼ100%「赤道座標系」で描かれています。でもガイアの星図は銀河面を基準に定められた銀河座標系が使われているようです。まぁ銀河の地図を作っているのですから、地球赤道面とか地球軌道面(黄道面)を気にする必要はないので当然ですね。でも互いの関係を立体的に把握してないと混乱します。多くの人が自分の住む半球と南北正反対に旅行したとき見慣れない星空にびっくりするのも似た理由でしょう。

もうひとつの「投影法」ですが、これは地球の地図でもお馴染みの「いかに球面を平面へ作図するか」という作業中に発生する問題点ですね。恒星位置は(距離や移動を気にしなければ)天球と呼ばれる球体上の位置として記録されますから、メルカトル図法など地図描画と全く同じ投影法が利用できますが、歪みなどの短所も継承されてしまいます。ガイアの星図を見ると縦:横=1:2の楕円なので「モルワイデ図法」とか「エイトフ図法」などの類と思われます。残念ながらガイア星図の投影法に関する情報を探し当てられなかったので正確には分かりません。ただ、いくつかの図法をマッチングさせたところ、少なくとも「周囲が少し削られていた」、つまり完全な全天星図ではないことが分かりました。

比較として、ヒッパルコス星表にある11.0等以上の明るい恒星を使い、三種類の座標系で星図を作ってみました(右図/横2400pixelあるのでご注意!)。投影法はエイトフ図法で、楕円中心が経度緯度とも0°の原点。互いの系の位置関係が分かるよう、赤道・黄道・銀河赤道(銀緯0°の線)および夏と冬の大三角の位置も描きました。大三角は両方とも銀河面が横切っているので、どのような座標系でも全天星図を見るときの良い目印になります。(ちなみに赤道が横切ってるほうが冬の大三角です。)この星図でも銀河面に添って恒星が多いことは感じ取れますね。

この星図は自作プログラムによるAdobe・Illustratorスクリプトのみで描きました。座標系変換もスクリプト内で済ませています。楕円投影として他にハンメル図法、モルワイデ図法でも描いてみましたが、似たり寄ったりなので掲載は割愛。(同様の星図はステラナビゲーターでも描けますが、エイトフ図法だけのようです。)

前述しましたが、このガイアデータの最大の強みは「高精度な4D」であるところです。視点移動による変化、時間移動による変化も、いずれ投影ノウハウに組み込まれることでしょう。現在はVRの過渡期で、こと恒星データなどは「リアルな宇宙っぽさ」を表現するエンタメの域を出てないかも知れません。でも近い将来、VRで恒星間を移動しながら文字通り“違う視点”で宇宙を研究する可能性も秘めていると思っています。

参考:
星表データで星図を描いてみました(プレアデス星団編)(2018/02/19)
標高データで火星図を描いてみました(2017/05/26)
標高データで月面図を描いてみました(2017/05/18)

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