アフリカのこと。2018/04/11

Great Rift Valleyと地震
去年秋から今年春にかけてアフリカに関するふたつの出来事を知り、関心を持って情報を追いかけています。簡単ですが現時点でまとめておきます。

【変化途上の大地溝帯と地震】
ひとつは「アフリカプレートが分離しつつある」というもの。地球はプレートと呼ばれる何枚もの「広大な岩」で覆われ、互いに押したり引いたり、はたまた縁が地球内部にめり込んだり出てきたりしている状況なのはご存じでしょう。現在ではもっと内部にあるマントルの動きも併せたプルームテクトニクスという考え方での地球解析も進んでいます。以前書いた「海の中の宇宙[2]」という記事では日本近くのプレートを簡単に紹介しました。プレート境界は陸でむき出しになってることもあれば、深海で良く見えないこともあります。高校の頃だったか、アフリカ全体が一枚のプレートに乗っていると覚えたものですが、近年は特にアフリカ東側の大地溝帯(Great Rift Valley)に沿って分ける扱いになりました。しかも完全分離しているわけではなく、まさに現在進行形なのです。

プレート境界では地震がたくさん発生します。日本しかり、メキシコしかり、この大地溝帯だって言わずもがな。左はUSGS(the U.S. Geological Survey)のデータを元に、2000年以降に発生したマグニチュード4.0以上の地震を地形図に重ねたもの。詳しく見て頂けるよう大きな画像にしました。地形図は標高や水深が分かるように色分けし、またプレート境界(ピンク太線)、リフト領域(ピンク点線)、地域名、有名な山などを書き込みました。(※プレート境界やリフト領域はデータソースが異なるためピッタリ整合性が取れてはいませんのでご了解ください。)震源はどれも浅いところで起こっています。何を意味するか考えてみてください。

一枚岩だったアフリカプレートを、大雑把には大地溝帯を堺に西をヌビア・プレート、東をソマリア・プレートと呼ぶようになりました。でも境界はかなり複雑で、見方によって様々な名が付いていました。ひとくくりに「イースト・アフリカン・リフト・バレー」または「イースト・アフリカン・リフト・システム」と言う場合もあれば、細かくエチオピア・リフト、イースト・アフリカン・リフト(西域と東域とに分かれる)、ニアサ・リフトなど地域毎に分ける場合もあります。またヴィクトリア湖を中心に東西のリフトが囲んでいる山岳地全体をケニア・ドーム、対してエチオピア・リフトを囲む山岳地をエチオピア・ドームと呼ぶこともあるようです。地形はいま正に生成・変形をくり返しているので、今後100年、1000年、10000年と経てば見た目も呼び方もかなり変化するでしょうね。

いずれにしても言えるのは、どうやらアフリカがふたつに分離するような動きを見せている事実。大地溝帯がますます深く割れつつあるのです。南部のニアサ・リフトがそのまま海に直結するのか、それとももっと南の陸域まで伸びるのかも興味津々。マダガスカルとアフリカ大陸の間にも小規模な海溝があるようです。これはもう注目せざるを得ませんね。短距離ながら日本も陸域に大地溝帯を持つ国で、今後の動向が心配されています。


【深刻な干ばつとデイ・ゼロ】
もうひとつの出来事は進行する干ばつです。「アフリカは砂漠が広いため水不足に悩まされている」というのは正しい言い方でないと思っています。例えばサハラと同じ北緯の東南アジアを見ると十分に湿潤な気候で、時々洪水に見舞われるほど。土地毎に現れる気候の特徴がまず先立ち、結果として広大な砂漠ができてしまうのでしょう。同緯度による違いだけでなく、南北差もあります。地球の大気循環図等を見ると赤道で南北対象に描かれているため、直感的に「北緯30度と南緯30度の差はあまり無い」などと錯覚してしまいます。もちろんそんなはずはなく、大きな差があるところも存在します。

  • 2017年南アフリカ・12ヶ月SPI値による干ばつ状況

    A.南アフリカ
    12ヶ月SPI値による干ばつ状況(2017年)
  • 南アフリカ・主要ダムの合計貯水量水位

    B.南アフリカ
    主要ダムの合計貯水量水位


2017年には南アフリカが酷い干ばつに襲われているニュースを度々目にしました。上のA図はSPIという数値をもとに描かれた干ばつ状況、B図は主要なダムの合計貯水量水位(引用元: Climate Systems Analysis Group)。SPI(Standardized Precipitation Index)とは対象期間の降水量が平年値に対してどれくらい偏っているか表したもので、洪水や干ばつなど降水由来の土地環境を調べる指標のひとつです。Extreme Droughtとなる濃い赤茶色の場所は、少し難しい表現をするなら「偏差が2σにすら入らない」滅多に起きない深刻な事態を示します。

気温であれ降水量であれ、普通は平年値から大きくズレないものです。また一時的にマイナスになっても、別の時期にプラスとなって差し引きゼロを保つのが常ですね。でもまれにマイナスあるいはプラスのまま長期間戻らないことがあります。偏った変動のまま反れ続ければ、自然の回復力では戻せない環境まで行き着いてしまうでしょう。特に干ばつが発生してしまうと生物は全滅しますから、その後大量に雨が降って「降水量データとして平年並みに復旧」した様に見えても、なかなか生命は宿らず砂漠化が容易には止まりません。上の図は南アフリカがそういう危機的状況であることを物語っています。

2015年頃からの顕著な干ばつに見舞われた南アフリカのケープタウンでは、今年2018年の4月下旬に「デイ・ゼロ」つまり市内全域で断水しなければならない日が来ると予測されました。このため政府は生活に使う水量を一人一日87リットルに制限し、市民に厳しい節水努力を課してきました。国土交通省・水資源部の「平成29年版 日本の水資源の現況」によると日本人一人一日あたりの水使用量は2000年頃で平均344リットル、2014年頃で286リットルとのことで、それを三分の一以下にする努力を考えてみてください。ケープタウン市民の努力の甲斐あって4月のデイ・ゼロは先延ばしになったようですが、そもそも降水量が十分ではないので、依然として厳しい状況は変わりません。水は農業や工業にも必要ですから、基盤産業が成り立たなくなります。

  • ケープタウン・年間降水量平年差(気象庁データ)

    C.ケープタウン
    年間降水量の平年差(気象庁データ)
  • 茨城県つくば市・年間全天日射量の平年差

    D.茨城県つくば市
    年間全天日射量の平年差


最後に、上にふたつの図を掲載しました。C図は気象庁サイトで公開されていたデータで作ったケープタウンの年間降水量平年差。元データは月毎のまとめですが、何ヶ月かデータ欠損している年(緑点線)もあります。この欠損を考慮しても、全体として平年差がプラスになっている年は少なそうだと見て取れますね。しかも年間降水量が日本のように1700mm以上も降っているわけではなく、平年値はたったの545.8mm。日本では土砂降りが数日続けば500mmなんてあっと言う間ですが、ケープタウンでは雨季が始まる晩春から半年かかっても300mmに達しない年さえあります。これじゃダムも干上がるわけだ…。

D図は「平均から外れるとはどういう状況か」を考えて欲しくて作りました。当ブログ基点にしている茨城県つくば市を例に、アメダス全天日射量の年間合計値を平年と比べたグラフです。毎年気候まとめを作っていて「全天日射量が毎年のように『余って』いる。なぜなんだろう?」と感じたのです。日差しが毎年平年値を上回っていたら、つくば市は太陽エネルギーを余剰に受け取ることになるでしょう。アメダスは点データなので、「周辺地域まで考えたら差し引きゼロ」であれば良いのですが、それは考えにくい。グラフのトレンドラインを見るまでもなく右肩上がりで、下がる要素がひとつもありません。

今の気候はずっと続くのか、あるいは何十年、何百年という長い周期で上下するのか、みなさんならどう考えますか?そもそも平年値だって、過去のたった30年を均したに過ぎません。気象の変化はそれこそ何世紀、何十世紀もかけて変遷します。それに比べたら現代科学のエビデンスが取れる気象データはあまりに短い。「一を聞いて十を知る」どころか「0.001も確かなことを聞いてない」範疇で将来の暑い寒いを議論しなければならない現状です。

南アフリカの南緯を逆にすれば沖縄から本州くらいの緯度。「日本が同様の事態になることは絶対にない」などと言えません。逆に巨大台風が増えて「雨が降りすぎる」という状況だってあり得ます。煽るわけではないけれど、小さな島国で大きな人口密度の日本はちょっとした地球変動に弱く、脆い国と言えましょう。最初の地溝帯の件も含め、アフリカなど世界の現状から学べることはたくさんあると思うのです。

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