月に隠されたレグルス、明け方には金星と木星が接近中2017/11/12

20171112月とレグルス
昨夜から今朝にかけては冬のように透明感溢れる空でした。ただ夜半過ぎまで強風に見舞われ、望遠鏡で何か撮るようなことは望めませんでした。

実は夜半過ぎに登った月がしし座のレグルスを掩蔽する現象が起こったはずですが、日本の大部分では非常に低空過ぎて見えなかったことでしょう。私の自宅アパートも周囲が住宅地なので、現象中は全く見えませんでした。

少し経って隣家の屋根向こうに昇ってきた月を望遠鏡で見ると、近くにレグルスが見えました(左画像)。もうだいぶ離れていますね。これを撮影した0:50頃でもまだ月高度は13°程度。低すぎて月面地形がぼんやりしています。でも低空までよく晴れた上に風もだんだん止んできたころで、見えただけでもラッキーです。こういうことは偶然の巡り合わせですからね。天気の神様ありがとう。

171112金星と木星の接近
明け方にはもうひとつ天文ショーが楽しめました。実は明日13日に金星と木星が満月の直径程度まで大接近するのですが、既に数日前から近づく様子が楽しめています。ただしこれまた超低空で、高くなるのを待っていると日が登ってしまうのです。なかなか見るタイミングが難しい現象ですね。

右画像は今朝5:25頃に撮影したもの。木々の間から顔を出したばかりの金星(上)と木星(下)が並んでいます。朝焼けのなかで大変美しく、これも低空までよく晴れたおかげです。撮影時点の金星高度はわずか4°。両惑星間の離角は1.5°あまり。

2017年11月中旬・金星と木星の接近
左図はStellariumによる茨城県つくば市での接近の様子(時刻設定5:30)。国内なら見える時刻に差が出るだけで、概ね似たような状況でしょう。金星は2018年1月上旬の外合に向けて次第に太陽へ接近するので高度を下げており、また木星は合を過ぎたばかりで太陽から遠ざかるように高度を上げています。

明け方に見る場合は13日と14日の離角が同じ程度ですから、天気と相談しながらぜひトライしてください。40、50分ほど先行しておとめ座のスピカが昇っているので、金星が昇る場所の良い目印になりますよ。

今日の太陽2017/11/12

20171112太陽
昨夜から今朝はよく晴れて、朝からも続いています。日中気温が上がり、だいぶ大気が揺れ動いていました。

20171112太陽リム
左は11:10過ぎの太陽。今日もまた活動領域は見当たりません。左上にダークフィラメントが見えています。これは昨日から続くものですね。左上と右下のプロミネンスも引き続き確認できますが、今日は気流が乱れまくって像がはっきりしませんでした。冬の空気ですねぇ。

虹星カペラと星の瞬き[2]2017/11/12


ぎょしゃ座のカペラが低空でカラフルな虹色に輝く「虹星」の状況を詳しく調べています。今回は2回目で、「カペラが他の1等星に比べて低空に位置する時間が長いかどうか」「それはどの程度なのか」を見てみましょう。

北点の日周運動
明るい1等星は大気の揺らぎ(シンチレーション)によって虹色に分離し、不規則かつ短周期で激しく色が変化します。この効果は一般に低空ほど顕著であることを最初の記事で述べました。従って、カペラが虹星と言われるためには、低空に留まる時間が長いことが必須条件となるでしょう。まず、星の日周とはどんな動きだったか見てみましょう。

右画像は北天の北極星を中心に星々が日周する動きを撮ったもの。回転の向きは「反時計回り」です。北を向くと東は右方向なので、東(右側)から西(左側)へ向かう動きは、日中の太陽と同じですね。でも太陽と違うのは「北天の一部の星々は沈まないことがある」という点。北極星自身もそうだし、北極星からある程度離れていても、地面すれすれを横切って沈まないところを通過する星があります。このような星は「周極星」と言います。

天の南北および天頂を通る線を「子午線」と呼びますが、天の北極より下側にも子午線は伸びています。周極星が天の北極より下側の子午線を通ることを「子午線下方通過」または「下方子午線通過」と呼ぶこともあります。対して天頂側の子午線を通過することは「子午線(上方)通過」あるいは「南中」と表現します。星がどこにあるかで日周の状況が変わるため、「恒星が低空に何時間見えるか」は恒星座標が大きく影響するでしょう。星々の位置を表す座標として地球の経度緯度を天球に延長した「赤経赤緯」を使うと都合が良いので、以降は多用します。日周の動きに大きな変化をもたらすのは、天の南北方向の位置、つまり赤緯です。

恒星の日周
左はステラナビゲーターで描いた「茨城県つくば市における12時間の恒星日周」。空全体を円形に収めています。子午線上の黄色の数値は高度を表し、円の中央が天頂、円周が地平線です。月明かりや光害の無い真冬、障害物の無い砂漠の真ん中で12時間固定撮影したらこんな写真が撮れると思います。可能ならやってみてください。

天の北極(ほぼ北極星の位置)の高度は、観察地の緯度に一致します。つくば市は北緯約36°ですから、この図もそうなってますね。周極星となる範囲は天の北極を中心にこの高度を半径とする円内であることが分かるでしょう。ところで、仮に地平から10°の高さまでを「低空」とした場合、北北東から昇る星、真東から昇る星、南東から昇る星など異なる方角で比較すると、明らかに軌跡が異なりそうです。1等星限定で考えた場合、軌跡の違いをもう少し詳しく比べてみましょう。

1等星の日周
右図は1等星代表として「ぎょしゃ座のカペラ」「わし座のアルタイル」「さそり座のアンタレス」の位置を表したもの。○印は30分ごとの位置です(※もちろん三つ全てが同一タイミングで昇るわけではありません、念のため。)同じ30分間隔でありながら、結構異なっていますね。0°から10°までの移動に注目すると、アルタイルに対してカペラやアンタレスは時間がかかるようです。また、10°まで昇るのに要する時間と10°から没するまでの時間は、一つの恒星では同じようです。

考えてみればこれは当然で、赤緯に関わらず一周に要する時間は同じなのに、天の赤道付近と極付近とでは移動距離がまるで違う、と言う事実の反映です。地球上で考えても同じで、例えばつくば市は約375m/sで日周しますが、赤道上では約464m/sという速さです。もちろん北極点上なら0m/sですよね。

ここでひとつ疑問が。右上図はあくまで茨城県つくば市の状況。恒星の見え方は観察地の緯度によっても影響を受けますね。例えば本州からほとんど見えない「りゅうこつ座の1等星カノープス」も、沖縄で見ればかなり高く昇ります。更に南のグアム島などへ行けば、本州から決して見えない「みなみじゅうじ座の1等星アクルックスとミモザ」も見えるでしょう。更に南のニュージーランドからはカペラがほとんど見えません。1等星の低空滞留時間幅を調べるには観察場所まで考慮しなくてはいけないのです。

恒星が低空に見える時間幅
かなりややこしくなったので、自前でプログラムを作って低空滞留時間幅を秒の精度まで計算し、左図を作成しました。日本から見える1等星を11個セレクトし、「1恒星日=約23時間56分4秒=恒星が日周して元の位置に戻るまで」の中で高度10°以下に見える時間幅(昇るときと沈むときの合計)を計算してあります。横軸は観察地の北緯で、赤道を原点とし、北半球中緯度の都市をカバーする北緯50°まで調べました。グラフのうち、恒星赤緯がマイナス(南緯)のものは点線、プラス(北緯)のものは実線です。なお大気補正は考慮しませんでした。

今までこの図に類するものを見たことがなかったため、作図が完成したときはかなり衝撃でした。頭でぼんやり理解していたものと実際とではかくも違うのですね。グラフから色々なことが分かります。例えば、ほとんどの観察地で時間幅がもっとも少ないのは天の赤道付近の恒星で、それより北でも南でも、離れるほど時間幅が多くなること。カペラやデネブなど北寄りの1等星は北緯30°辺りから低空滞留時間が激増し、低赤緯の星に比べて3、4倍に達すること。でも周極星となる緯度より北になると逆に激減してしまうこと等々。みなさんも何か発見できると思います。

こうしてみると、北天1等星の御三家であるカペラ、デネブ、ベガは、特に本州から北海道にかけて「低空に見える時間が特異的に長い」と言えるでしょう。大気の揺らぎで虹星になる時間が長いわけです。意外(?)にもアンタレスやカノープスも大健闘していますよ。実際に観察すると高度20°より高くても瞬いており、また虹色に見えることも多いですから、このグラフよりもずっと長く「虹星」を楽しむことができるでしょう。


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