海の中の宇宙[1] ― 2017/07/17
世界の中には、どんな地図でいくら拡大しても情報がほぼ皆無のところがあります。それは海。「海図なら良く整備されているではないか」とおっしゃる方もいるでしょうが、ここで言っているのは海上ではなく海底地形のこと。海底のどこに山や谷があり、何と呼ばれどんな形をしてしているか、ご存じですか?人間は一生かかっても行けない月や火星の表面を詳細に分かっているのに、いつも泳いでいる海の、その底のことはあまり知らないのです。
島国である日本は単独で海に浮かぶ物体ではなく、海底にある広大な土台に支えられてます。小さな島だってそうです。昨今は大地震への備えや頻発する海底火山への関心で海底地形への理解が必要と思いますが、海底をじっくり見る機会は少ないように思います。海という名の宇宙を少しだけ覗いてみましょう。
下の地図をご覧ください。A図は電子国土Web(国土地理院サイトから引用)、B図はGoogleマップ標準地図、C図はGoogleマップ航空写真。(※いずれも当記事掲載時の仕様/キャプチャ画像なので拡大や移動などはできません。)陸域ならば国内海外問わず十分な情報量で、場所によっては幅1mの脇道や段差だって載ってます。でも海底地形は?A図では色分けが粗すぎて深度の情報が漠然。B図は問題外。C図はレリーフ風になってるから凸凹は分かりますが、地名は書いてないし単一色で視認性も悪いですね。
私がC図のようなグローバルな海底地形図を見たのは数十年前の科学雑誌でした。以降、あまり変わってないようです。可視光どころかどんな電磁波も海水に吸収され直接見ることができない海底。今のところ「深度を測る何らかの方法」で有効なのは音波だけ。ソナーを積んだ船で世界中の海を航海する、文字通り「人海戦術」以外に無いのです。少なくとも一般の人が手にすることができる状態の、地上に匹敵する高解像度全球データは存在しないようです。(ひとつの国の経済水域程度なら、やや高解像度データが無いこともないのですが…。)
解像度は地上よりかなり劣りますが海底込みの全球データとして、地図屋さんに知名度の高いSRTM(Shuttle Radar Topography Mission/スペースシャトルで測定した地上標高をベースに、両極と海底標高を合成したデータセット)シリーズがあります。現時点ではSRTM30Plus.v.11と、SRTM15Plus.v.1というのが最新みたいですね。SRTM15Plusを使った海底地形図はほとんど見かけたことがないため、今回はこれを使って地図を自作することにしました。解像度は緯度0°で15秒角(=約464m相当)です。また海上保安庁海洋情報部から日本周囲にある海底地形の名称リスト(現時点の最新は2016年版)も公開されています。正式な手続きで国際的に承認された地形名です。こういった情報を組み合わせれば自分で楽しむ程度の海底図作成は可能でしょう。
日本での海底地形命名には厳密なルールがありますが、その中に「類似の地形の集合に対し、歴史上の人物、神話の事象、星、星座、魚、鳥、動物などの名称を集合的に付与」するという面白い項目があるんです。海のなかに“天体”があることを十数年前に知ったときは、台風に星座名が付いてると知ったとき以来の驚きでした。プレート境界地震などの大きな話をする知識はありませんので、当ブログに関係ありそうな空や自然、季節などが命名された海底地物を巡りながら、景観を見ていきましょう。(※たくさんあるので、数回に分けて掲載します。)
今回は「天文」に関する分類のうち、太陽系内の天体である「月・惑星・流星・彗星」の名を持つ海底地形をご紹介します。左の全体図にある白い長方形のうち、北側の拡大がE図、南側がF図。だいたい南大東島と硫黄島の中間あたりになります。ここはいわゆるフィリピン海プレート。西日本が乗っているユーラシアプレートの下へ向かって沈み込む地域ですね。
太陽系関連の名を持つ海山などは、細長い山脈…正確には「九州−パラオ海嶺」に沿って連なります。南大東島と硫黄島の中間あたりから南に向かって、流星、彗星、月の位相を表す三日月や上弦、満月など、そして惑星の名があります。海洋地形なので実際の天体とは関係なく、形が似てるわけでもありません。「三日月海山の北だから北三日月海山」といった関取みたいな命名もあります。南側には太陽系の惑星が並んでいますが、ちゃんと順番になってて可愛らしい。天王星は海山の他に海丘もあるんですね。火星は一連の海山では水深が一番浅く、もっとも島になる可能性が高そうです。「水星」がありませんが、海底地名は海外でも使うため日本以外で漢字は使えませんから、「彗星」との混同を避けたのだと思われます。E図の中で「遊星」というのは惑星の別称。「彗新」という名は意味不明ですが、これは「彗星海山と新星海山の中間に位置」するからだそうです。(京葉線とか阪和線のノリかな?)新星海山は後日連載のどこかに登場します。
九州−パラオ海嶺のなかの流星海山および火星海山付近から沖縄本島のほうへ、大東海嶺、沖大東海嶺といった別の山脈が延び、その途中でいくつかの島が海上へ顔を出しています。よく聞く「南海トラフ」「駿河トラフ」は、フィリピン海プレートとユーラシアプレートの境界のうち、九州−パラオ海嶺よりも北側を指します。月や惑星の名を持つ海山たちは遠い将来に九州の下敷きとなるかも知れませんが、冥王星海山まで飲み込まれる数億年後は地上も別世界になってるでしょう。
(海の中の宇宙[2]へ進む)
島国である日本は単独で海に浮かぶ物体ではなく、海底にある広大な土台に支えられてます。小さな島だってそうです。昨今は大地震への備えや頻発する海底火山への関心で海底地形への理解が必要と思いますが、海底をじっくり見る機会は少ないように思います。海という名の宇宙を少しだけ覗いてみましょう。
下の地図をご覧ください。A図は電子国土Web(国土地理院サイトから引用)、B図はGoogleマップ標準地図、C図はGoogleマップ航空写真。(※いずれも当記事掲載時の仕様/キャプチャ画像なので拡大や移動などはできません。)陸域ならば国内海外問わず十分な情報量で、場所によっては幅1mの脇道や段差だって載ってます。でも海底地形は?A図では色分けが粗すぎて深度の情報が漠然。B図は問題外。C図はレリーフ風になってるから凸凹は分かりますが、地名は書いてないし単一色で視認性も悪いですね。
私がC図のようなグローバルな海底地形図を見たのは数十年前の科学雑誌でした。以降、あまり変わってないようです。可視光どころかどんな電磁波も海水に吸収され直接見ることができない海底。今のところ「深度を測る何らかの方法」で有効なのは音波だけ。ソナーを積んだ船で世界中の海を航海する、文字通り「人海戦術」以外に無いのです。少なくとも一般の人が手にすることができる状態の、地上に匹敵する高解像度全球データは存在しないようです。(ひとつの国の経済水域程度なら、やや高解像度データが無いこともないのですが…。)
解像度は地上よりかなり劣りますが海底込みの全球データとして、地図屋さんに知名度の高いSRTM(Shuttle Radar Topography Mission/スペースシャトルで測定した地上標高をベースに、両極と海底標高を合成したデータセット)シリーズがあります。現時点ではSRTM30Plus.v.11と、SRTM15Plus.v.1というのが最新みたいですね。SRTM15Plusを使った海底地形図はほとんど見かけたことがないため、今回はこれを使って地図を自作することにしました。解像度は緯度0°で15秒角(=約464m相当)です。また海上保安庁海洋情報部から日本周囲にある海底地形の名称リスト(現時点の最新は2016年版)も公開されています。正式な手続きで国際的に承認された地形名です。こういった情報を組み合わせれば自分で楽しむ程度の海底図作成は可能でしょう。
日本での海底地形命名には厳密なルールがありますが、その中に「類似の地形の集合に対し、歴史上の人物、神話の事象、星、星座、魚、鳥、動物などの名称を集合的に付与」するという面白い項目があるんです。海のなかに“天体”があることを十数年前に知ったときは、台風に星座名が付いてると知ったとき以来の驚きでした。プレート境界地震などの大きな話をする知識はありませんので、当ブログに関係ありそうな空や自然、季節などが命名された海底地物を巡りながら、景観を見ていきましょう。(※たくさんあるので、数回に分けて掲載します。)
今回は「天文」に関する分類のうち、太陽系内の天体である「月・惑星・流星・彗星」の名を持つ海底地形をご紹介します。左の全体図にある白い長方形のうち、北側の拡大がE図、南側がF図。だいたい南大東島と硫黄島の中間あたりになります。ここはいわゆるフィリピン海プレート。西日本が乗っているユーラシアプレートの下へ向かって沈み込む地域ですね。
太陽系関連の名を持つ海山などは、細長い山脈…正確には「九州−パラオ海嶺」に沿って連なります。南大東島と硫黄島の中間あたりから南に向かって、流星、彗星、月の位相を表す三日月や上弦、満月など、そして惑星の名があります。海洋地形なので実際の天体とは関係なく、形が似てるわけでもありません。「三日月海山の北だから北三日月海山」といった関取みたいな命名もあります。南側には太陽系の惑星が並んでいますが、ちゃんと順番になってて可愛らしい。天王星は海山の他に海丘もあるんですね。火星は一連の海山では水深が一番浅く、もっとも島になる可能性が高そうです。「水星」がありませんが、海底地名は海外でも使うため日本以外で漢字は使えませんから、「彗星」との混同を避けたのだと思われます。E図の中で「遊星」というのは惑星の別称。「彗新」という名は意味不明ですが、これは「彗星海山と新星海山の中間に位置」するからだそうです。(京葉線とか阪和線のノリかな?)新星海山は後日連載のどこかに登場します。
九州−パラオ海嶺のなかの流星海山および火星海山付近から沖縄本島のほうへ、大東海嶺、沖大東海嶺といった別の山脈が延び、その途中でいくつかの島が海上へ顔を出しています。よく聞く「南海トラフ」「駿河トラフ」は、フィリピン海プレートとユーラシアプレートの境界のうち、九州−パラオ海嶺よりも北側を指します。月や惑星の名を持つ海山たちは遠い将来に九州の下敷きとなるかも知れませんが、冥王星海山まで飲み込まれる数億年後は地上も別世界になってるでしょう。
(海の中の宇宙[2]へ進む)
【天文に関する名前が付いた海底地形リスト・その1】
海底地形名 | 属名 | 承認年 | 水深 |
---|---|---|---|
流星海脚(Ryusei Spur) | 海脚(Spur) | − | − |
北流星海山(Kita-Ryusei Seamount) | 海山(Seamount) | 2001年 | 1030m |
流星海山(Ryusei Seamount) | 海山(Seamount) | 2001年 | 744m |
彗星海山(Suisei Seamount) | 海山(Seamount) | 2001年 | 1220m |
東彗星海山(Higashi-Suisei Seamount) | 海山(Seamount) | 2001年 | 1670m |
彗新海穴(Sui-shin Hole) | 海穴(Hole) | 2001年 | 6400m |
西遊星海山(Nishi-Yusei Seamount) | 海山(Seamount) | 2001年 | 2690m |
明星海山(Myojo Seamount) | 海山(Seamount) | 2001年 | 1070m |
遊星海山(Yusei Seamount) | 海山(Seamount) | 2001年 | 2090m |
明の明星海山(Ake-No-Myojo Seamount) | 海山(Seamount) | 2001年 | 1830m |
北三日月海山(Kita-Mikazuki Seamount) | 海山(Seamount) | 2001年 | 3230m |
十五夜海嶺(Jugoya Ridge) | 海嶺(Ridge) | 2015年 | 3794m |
満月海盆(Mangetsu Basin) | 海盆(Basin) | 2001年 | − |
三日月海山(Mikazuki Seamount) | 海山(Seamount) | 2001年 | 2390m |
上弦海盆(Jogen Basin) | 海盆(Basin) | 2014年 | 5897m |
下弦海盆(Kagen Basin) | 海盆(Basin) | 2014年 | 5810m |
残月海山(Zangetsu Seamount) | 海山(Seamount) | 2015年 | 3337m |
半月海嶺(Hangetsu Ridge) | 海嶺(Ridge) | 2015年 | 4200m |
金星海山(Kinsei Seamount) | 海山(Seamount) | 2001年 | 2090m |
火星海山(Kasei Seamount) | 海山(Seamount) | 2001年 | 88m |
木星海山(Mokusei Seamount) | 海山(Seamount) | 2001年 | 1970m |
西土星海山(Nishi-Dosei Seamount) | 海山(Seamount) | 2014年 | 3432m |
土星海山(Dosei Seamount) | 海山(Seamount) | 2001年 | 2790m |
天王星海丘(Tennosei Knoll) | 海丘(Knoll) | 2001年 | 3100m |
西天王星海山(Nishi-Tennosei Seamount) | 海山(Seamount) | 2014年 | 3873m |
天王星海山(Tennosei Seamount) | 海山(Seamount) | 2001年 | 1990m |
西海王星海山(Nishi-Kaiosei Seamount) | 海山(Seamount) | 2014年 | 3953m |
海王星海山(Kaiosei Seamount) | 海山(Seamount) | 2001年 | 2950m |
冥王星海山(Meiosei Seamount) | 海山(Seamount) | 2001年 | 2270m |
- 海底地形リストは登録位置が北から南に向かって掲載しています。元ファイルにデータ記載が無い項目は「−」表記です。
- 元ファイルの地物は点(ポイント)、線(ライン)、面(ポリゴン)のいずれかで登録されています。点の場合は小さな赤丸、線と面(アウトラインのみ)はピンク線に分けて描画しました。
- 同じ海山でも点登録と面登録があったり、広がりを持つ地物が点登録といったチグハグさが目立ちますが、元データがそうなっています。いずれ改善されるでしょう。
- 地図左上の段彩凡例は水深/標高です。標高0m以上の陸域は段彩パレットで白色系にしていますが、精度が高くないため海岸線や湖面などの水際でやや不明瞭になります。(意図的に海岸線や等高線は描いていません。)
- 点の座標が地物の位置から若干ずれて見えるところがあります。これも精度不足が原因と思われます。
- 幾何学的なくぼみやキャタピラー痕のような凹凸があちこちありますが、主に元データのエラーと思われます。(船の航路やソナーの向きが影響するでしょう。)こういうのを何年もかけて修正しながら、地形データはバージョンアップをくり返してきました。
- 描画はGMT(ver.5.4.2/Mac版)を使用しました。簡単のため地理的図法ではなく直交座標にしました。詳しく見ていただくため大きな画像にしてます。小さな画面で見ている方、ごめんなさい。