標高データで火星図を描いてみました2017/05/26

20170527月と火星の接近図
ここ数日曇りや雨続きですが、実は直前の晴れた晩に火星を探してみました。結果は惨敗…全く見えません。なぜ探したかというと、本日5月26日に新月を迎えた月が、明日27日夕方に火星と接近するからです。1.6という月齢から察することができますが、この現象は超低空で起こります。

左はStellariumによるシミュレーション。いわゆる「天文学的夕暮れ」の時刻でも月・火星ともに高度がたったの8°、離角は約7°。ある程度暗くなる航海薄暮まで待っていると沈んでしまうでしょう。6月25日にも起こりますが更に超々低空ですし、もはや梅雨の時期。ですから万が一見えるとすれば5月が最後だと考えたのです。(→前回の記事はこちら。)火星は7月下旬に合となりますが、現在既に太陽との離角が20°を下回っています。地球から最も離れた付近に差しかかってますから視直径が小さく、従って光度も1.7等と暗いのです。この観察はかなりの練度と運が必要でしょう。(※追記:当日の観察記事はこちら。

合を過ぎた火星は2018年7月31日の地球接近に向けた道のりを歩み始めます。2018年の接近は天体撮影がデジタル時代に完全移行した21世紀最初の「2003年の大接近」に次ぐ二度目の大接近で、とても期待できます。2016年5月の接近と比べ、視直径比が1.3倍も大きく見えるでしょう。見逃せば2035年まで同レベルの接近はありません。

ものすごく気が早いですが、期待ついでに火星の地図を作ってみました。1週間ほど前の記事・5月18日の月面地図と同じ手法で、アメリカ地質調査所 Astrogeology Science Centerから公開されている火星標高およびテクスチャのデータを使いました。A図はNASAの火星画像と見た目が変わりませんが、標高データから描き起こしたCG地図。その証拠に、段彩パレットを変更するとB図のように早変わり。今まで高いだろうと思い込んでいた場所が低かったり、その逆もあったりして面食らいました。月面に比べクレーターは少なく、起伏もやや平坦ですね。なお地図の上が北極、下が南極、地図中央は緯度経度とも0°の地点で、「子午線湾」という地名の由来でもあります。

  • 火星図

    (A)
  • 火星図

    (B)

下のC図はマリネリス渓谷(峡谷)を拡大したもの。D図は同じ位置を段彩パレットで着色したもの。こうすると、谷底に川が流れているような地球の大峡谷に見えてしまいます。かつて火星に豊富な水があり、本当にこんな景色が存在していたかも知れません。渓谷の最低点標高は約-5000m(中央の濃青色付近)、対して最高点は8800mを越える(左側の薄ピンク色付近)という衝撃の事実。

D図の右側はE図へとつながっています。E図右下側が特に荒々しく削られたようになっていますが、ここはマルガリティファー・カオスと呼ばれる地形。そこから上方(北側)に広がるクサンテ大陸に向かうに連れて次第に滑らかな地形へと変わってゆきます。この辺りはどう見ても大河の下流や中州、河口の風景ではありませんか。この平坦になったところは、1970年代に火星の地表観測を初めて成功させたバイキング1号が着陸した場所です。

  • マリネリス峡谷

    (C)
  • マリネリス峡谷

    (D)
  • マルガリティファー・カオス

    (E)

あれこれ見ている内に気付いたのですが、火星の標高0m以下…特にB図の青色に染まっている地域は標高差が少ないなぁと感じました。地球で言う海溝や海山などは全くありませんし、褶曲や風化の大規模な痕跡などもほとんど無し。試しに段彩パレットを極端な色彩・グラデーション無しにして描くとF図のようになりました。1000m毎の等高線も入れてあります。凸凹の多めな南半球や赤道付近に対し、北半球高緯度に広がる低標高平坦地域は標高差わずか数千m以内に収まってしまい、大局的には極めて滑らかでした。

いっぽうご存じのように火星には太陽系最大級の火山「オリンポス山」があります。G図はF図左端にあるオリンポス山近辺の拡大ですが、オリンポス山火口を通る青色点線に沿って断面図を描くとH図のようになりました(※標高を120倍拡大)。平野部の平坦さに比べて、オリンポス山が異様にそそり立っていますね。「地球の最高峰から最深海溝まで8850mから-10911m」という値と比較すると面白いでしょう。平坦な部分は極端にクレーターが少ないことも、液体状の物質が緩衝材だったのでは?という考えに至るポイント。火星大接近はまだまだ先ですが、少しずつ火星のこと深く知りつつ思いを馳せています。

  • 火星図

    (F)
  • オリンポス山付近

    (G)
  • オリンポス山付近の断面

    (H)


【おまけの追記】
下は同じ標高データをカシミール用に変換して描いた3D俯瞰図。地球からは見えない角度だから新鮮です。
  • オリンポス山

    オリンポス山3D
  • マリネリス渓谷

    マリネリス渓谷3D


参考:
アーカイブ:火星の地球接近