最大光度なのに明るくない明けの明星2017/05/01

20170501ヘルクレス座銀河団(Abell2151)
昨夜から今朝にかけて穏やかな晴れ間が続きました。5月最初の夜明けがこれでは、縁起が良いのか悪いのか…?うん、良いということにしておきましょう。

このところ機材調整など続けていますが、試写を兼ねてヘルクレス座銀河団(Abell 2151)を撮影しました。このエリアはいつか撮ってみたいと思いつつ、何年も先送りになっていた場所。夜でも明るい市街地で何の対策も無しでは写りが悪いと重々承知していますが、何はともあれ100分ほど撮影しました。それが左画像です。

20170501ヘルクレス座銀河団(Abell2151)
5億光年ほど先にある銀河のかたまり。微かに見える無数の光芒がヘルクレス座の一角にあるのです。実際の空で探すにはへび座頭部(へびつかい座の西に延びる星座)にあるγ星(γSer)から辿った方が手っ取り早いでしょう。写っている銀河にカタログ番号を記入したのが右の反転画像。(番号はWIKISKYによります。)まだ画像に書き足りないものや撮像エリアの外まで連なる銀河も数え切れないほどあるんです。驚くほど宇宙の深さを感じられる場所ですね。

20170501明け方の金星
銀河の撮影が終わる頃に薄明が始まったので、最大光度を過ぎた金星を見に見晴らしよい場所へ。今朝は朝露が少なかったものの空の透明度はかなり低くて、薄い霧がかかったように低空の朝焼けはドロッとしていました。金星もいつもよりずっと暗く、オレンジ色に染まっていました。金星の上にはうお座の「西の魚」が見えています。

最大光度とは言え、見た目の光度を一番左右するのは天気です。また、いつもベストコンディションで見える訳ではない…つまり、高い空に昇った状態で見えるわけではありません。明けの明星でも宵の明星でも、毎期ごとに状況は変わるのです。

下図はステラナビゲーターを使って当地・茨城県での「明けの明星の高度」を描いたもので、下左が前期の2015年秋−2016年春、下右が今期の2017年です。どちらも同じスケールで、「日の出1時間前」という時刻に固定しました。金星が高くなるペースや最高高度、方角など随分違うことが分かるでしょう。何故こうなるかを考えるのも面白いですよ。今期はなかなか高く上がってくれないようですね。

  • 明けの明星高度(2015-2016年)
  • 明けの明星高度(2017年)

5月7日のおとめ座ポリマ掩蔽が面白そう2017/05/01


おとめ座
今期は木星が輝いているため「おとめ座」が探しやすくなっています。木星が南中する頃に見上げると、スピカが左下に見えるでしょう。木星はスピカから離れつつありますが、6月中旬から反転して9月上旬の夕空で3°あまりまで接近します。

さて当記事の主役はスピカでなく、おとめ座γ星。通称ポリマ(Porrima)と呼ばれる2.8等の恒星です。左のステラナビゲーター星図で示した通り、木星とスピカを使えばすぐ特定できます。この星は二重星(実視連星)のテスト星として知られていますが、スピカと同じく月の通り道に近いため、しばしば月に掩蔽される明るい恒星という側面もあります。そして今年ゴールデンウィーク終盤の5月7日深夜、月齢11の月がポリマ掩蔽を起こすのです。

単独の恒星が月に隠される場合、ほぼ瞬時に消えたり現れたりします。でも接近した二重星の場合は段階的に潜入/出現するため、面白い光度変化が期待できます。ポリマは良く整備された天体望遠鏡で拡大しないと分からないほど接近しており、時間差で消えたり現れたりする様子を楽しめるのです。なお一般には「ポリマ食」という呼称で言われますが、天体が別天体を隠す現象は「掩蔽」であり、天体の影が別天体を暗くする「食」と区別するべきもの。このブログでは正しく「掩蔽」の呼称を使います。

20170429ポリマ(直焦点撮影)
右は2日前の4月29日に撮影したポリマ。1600mmオーバーの焦点距離を持つ望遠鏡での直焦点撮影です。空の状態やカメラの画素数にもよりますが、良好な空に恵まれ、長辺4000ピクセル以上&APS-Cサイズ以上のカメラなら、バローなどで拡大しなくても1000mm以上あれば分離できるでしょう。目安としては「月を撮影したとき、月直径が長辺くらいの大きさ」であれば十分。自分の機材コンディションを知る上でも、時々このような重星の眼視観察や撮影をお勧めします。

前述でポリマの光度を2.8等と書きましたが、実はこれ「合成光度」という数値です。実視連星であるポリマは3.48等の主星Aと3.53等の伴星Bが互いに回り合う星系なのです。ですが肉眼や低倍率で分離できないため、「両星の光度から計算した仮想の光度を持つひとつの星」として扱われることも多いのです。(合成光度は単純な足し算や平均ではなく対数を使った計算が必要です。)

地球から見たポリマABの離角(見た目の幅)および位置関係(北方向から東回りに測った伴星の位置角で表す)は年々変化します。離角は2005年6月頃に0.374″まで最接近し、その後次第に離れつつあります。今年2017年5月は2.620″まで離れ、見やすくなりました。ポリマは長年の観測で大凡の軌道が分かっており、軌道図を描くことができます。(軌道要素はSixth Catalog of Orbits of Visual Binary Starsを使用、計算と描画は自作プログラム。)たいていは下左図のような主星を原点に固定した楕円軌道図を多く見かけますが、ポリマAに対するポリマBは「太陽に対する地球」のように軽いわけではなく、同程度の質量です。従って止まっているAの回りを一方的にBが回る訳ではありません。ポリマは質量比まで分かっているので、両星の共通重心を原点にして実際の運動に沿った軌道図も描けます(下右図)。なおふたつの図の縦横目盛りは角度の秒、軸方向は赤道座標系に倣って上方向を天の北にしてあります。両図は原点の取り方が異なるだけで、本質的に同じです。

  • ポリマ軌道図(主星原点)
  • ポリマ軌道図(共通重心原点)

【ポリマ掩蔽時刻】
仙台2017/5/7  23:39:0035秒
2017/5/7  23:52:35-40秒
つくば2017/5/7  23:29:5410秒
2017/5/8  0:06:18-16秒
新宿2017/5/7  23:28:129秒
2017/5/8  0:08:00-14秒
新潟2017/5/7  23:29:2615秒
2017/5/7  23:57:19-21秒
名古屋2017/5/7  23:19:046秒
2017/5/8  0:08:57-12秒
大阪2017/5/7  23:14:424秒
2017/5/8  0:09:58-11秒
島根2017/5/7  23:07:294秒
2017/5/8  0:05:31-10秒
徳島2017/5/7  23:11:403秒
2017/5/8  0:11:27-10秒
福岡2017/5/7  22:59:321.6秒
2017/5/8  0:09:13-8秒
那覇2017/5/7  22:56:26-2.2秒
2017/5/8  0:24:46-5秒

今回ポリマの掩蔽が見えるのは後述のグレージングライン地図より南西側のエリア。北海道と東北地方北部は残念ながら見えません。右表はいくつかの都市における予報時刻と、ポリマBの「現象時間差」を計算した値です(Occultを使用)。上段はポリマAの潜入時刻およびAに対するポリマB潜入の時間差、下段は出現側の同時刻と時間差です。時間差がマイナスの場合はBの現象が先行して起こります。月面の潜入(出現)位置は観察場所によって大きく変わるため、現象時刻や時間差も変化するのです。表を見ると北ほど時間差が大きいことが分かりますね。

地域限定ですがもうひとつ注目ポイント!日本で見えるポリマ掩蔽は今年3回あります。1回目は2月14日に終了しました。今回と次回(7月28日→解説記事はこちら)はどちらも国内でグレージング(接食掩蔽)となるのです。今回は東北地方で起こり、具体的には下のGoogleMapの通りです。

重星のグレージングでは予報場所が何を示しているか気を付けなくてはいけません。主星と伴星とで、グレージングラインが異なるからです。今回の場合は北限界線なので、月の北側をポリマがかすめます。前出の軌道図を見れば分かるように今年のポリマはほぼ南北に並び、主星が南側です。地図下の月縁図は共通重心をゼロラインとした図になっています。黄色の小さな丸が恒星(下がポリマA)。AとBのグレージングでは現地で10km以上の差が出てしまうということです。

ポリマAでグレージング観測するならポリマBはずっと見え続けることになり、観察方法や機材によっては出入りの判定が難しいかも知れません。逆にポリマBでグレージング観測するとポリマAは最初と最後で数分の時間差に及ぶ潜入と出現が起こり、その間に同様の問題が起こるでしょう。通常のグレージング観察の倍以上に渡り観察時間を確保する必要がありそう。観測なさる場合はどの観察位置でどう見えるのか、事前にこのようなイメージトレーニングをしてくださいね。なお次回7月28日のγVirグレージングは鳥取と静岡を結ぶ南限ラインになります。近くなったらご案内する予定です。

【2017/05/07・γVirグレージング】
       

20170507月縁図

月縁図
  • 予報ラインはグレージングの北限です。恒星は月の北側の縁に接します。恒星は重星ですので観察場所の選定に気を付けてください。
  • 予報ラインはゼロライン(赤線)を基準にして2kmおきにプラスマイナス6kmまで描いています。ラインをクリックするとライン名称が表示されます。この距離は右の月縁図縦軸に対応します。
  • 赤丸アイコンをクリックすると、その地点の現象時刻や高度などが表示されます。標高が異なる所では現象内容や時刻が少しずれます。
  • 望遠鏡アイコンをドラッグすると、三脚下×印の緯度・経度・標高を測定して地図下(欄外)に表示できます。必要に応じてお使いください。なおGoogleMapの標高は実際よりずれていますので、あくまで目安に。


参考:
おとめ座のポリマが掩蔽されました(2017/05/08)……当日の観察記事です

久しぶりの月、ジョンソン彗星も2017/05/02

20170501_06907月
昨日午後は激しい雷雨になったものの、夕方から今朝にかけて穏やかに晴れました。ただ宵のうち雲が多く、月の撮影を予定していたのに少し遅れてしまいました。左は20:40頃の撮影で、太陽黄経差69.07°、撮影高度32°あまり、月齢は4.98です。この位相はアーカイブ「月の形」をリニューアルして以降初撮影で、多少雲があっても撮りたかったのです。なんとか雲が切れて良かった良かった…。

月は明日3日正午近くに上弦を迎え、同日夕方からは月面Xが楽しめるでしょう。2017年1月4日の記事で触れましたが「月面Xが上弦の後にやってくる」というパターンですね。左画像を見ると確かに危難の海が右縁から離れています。また3月同様に日が暮れるころX地形が完成するというベストタイミングなので、晴れたらぜひご覧ください。

月は日付を越える前に没し、そのころから透明度が上がってとても良い空になりました。夜明けまで時間が短い季節なのが残念です。とりあえずジョンソン彗星(C/2015 V2)、およびリファレンスとして球状星団M3を撮影しました(下画像)。(※彗星撮影中に何度か雲の通過がありました。)ジョンソン彗星は現在日が暮れると既に北東の中空に見えており、5月中旬には真夜中0時に南中を過ぎてしまうようになります。月が夜半まで昇らなくなる5月下旬には「夕方に見える彗星」と言っても良いくらいでしょう。光度がピークを迎える6月頭には今日と同じような月がやってきてしまいますから、見ごろとしては5月下旬がお勧めですね。お見逃しなく!

  • 20170502ジョンソン彗星(C/2015 V2)
  • 20170502球状星団M3

参考:
アーカイブ:月の形(黄経差36度以上、72度未満)
ジョンソン彗星(C/2015V2)に関係する記事(ブログ内)

今日の太陽2017/05/02

20170502太陽
今日は八十八夜。明け方一時的に雲が多かったものの日の出後はとてもよく晴れています。正午には気温が20度に達しました。ゴールデンウィーク後半は更に高くなるようです。

20170502太陽リム
左は9:30頃の太陽。右やや下の活動領域12653と中央やや左上の12654があるにはありますが、目立ってはいないようです。右リム沿いに何ヶ所か見えるプロミネンスが面白い形してますね。