真夜中に地球が起こす日食2015/09/06


20150906_0020地球
まずは左画像をご覧ください。不思議な画像ですが、金星ではありませんよ(笑)なんとこれ、本日9月6日0:20(真夜中過ぎ)の気象衛星ひまわりによる可視画像(画像元:NICTサイエンスクラウド)です。夜中でも可視画像が配信されるようになって、一番楽しみだったのがこの夜中の地球でした。別に夜景が見えるわけではありませんが、この限りなく細く欠けた地球の姿は何とも美しいではありませんか。

ここでちょっと意地悪して、画像の輝度レベルを10倍にしてみます(右下画像)。すると…暗い部分にもなにか見えてきましたね。何だか地球の右上に光源があって、光が漏れ出しているように感じませんか?更にギザギサのマスクによってその光源が意図的に隠されてるみたいです。見たらヤバいUFO的なものが写っているのかも。…んなわけないですね、もうお分かりでしょう。光源の正体は太陽です。8月に太陽のそばで金星の内合が三日月状に見えましたが、全く同じ理由で気象衛星から地球の内合を見るとこの画像のように見えます。この場合の「内合」を正しく言い換えれば「地球と太陽の方向が重なる」現象、つまり日食ですね。
20150906_0020地球

ひまわり8号からはこの時期毎夜「地球による日食」が見えます。なんだかすごい事のように思えますが、例えば国際宇宙ステーションからも周回のたび日食が見えますし、地上にいる私たちも実は一日一回太陽が地球に隠される日食…別名「日の出・日の入り」を体験してます。気象衛星が見ているこの日食とは、毎日の日の出入りのようなものなのです。

さて、地球表面を写したい気象衛星にとって太陽と地球が重なる時間は「逆光が眩しくて撮れない!」状態。本当はこんな状況避けたいところですが、赤道上空で静止しているのですから逃げられません。仕方なく、その時間は観測をやめるか画像の太陽迷光をカット処理され冒頭のようになるのです。このへんの詳しい事情は気象庁のここのページをどうぞ。

ところで、一年中いつでも真夜中に太陽と地球が重なるわけではありません。ではいつ頃なのか計算してみましょう。

地球日食説明図
地球から見ると太陽の方向は赤道に対してプラスマイナス約23.4度角の振れ幅があります。8月18日の記事で少し触れましたが、これは地軸に傾きがあるからです。いっぽう、赤道の約35800km上空にいるひまわり8号がほぼ静止していると仮定して、地心距離(高度+地球赤道半径)を使えば「衛星からの地球視半径」が約8.6度と計算できます。衛星から太陽までの距離は地球までに比べてたいへん遠いので「衛星からの太陽視位置はほぼ地球と同じ」とすれば、「太陽赤緯がプラスマイナス8.6度以内の時期、ひまわり8号から見た太陽は夜中に地球と重なってしまう」と言えるでしょう。概略図は右のようになりますね。

今年の太陽赤緯を国立天文台サイトで計算すると、気象衛星の撮影範囲に太陽が重なるのは9月1日から10月16日でした。秋分をはさんでプラスマイナス20日余りでしょうか。実際は太陽が地球の縁からもう少し離れないとカメラが直射ダメージを受けるでしょうから、例えば視半径の半分程度のクリアランスを見込むなら8月中旬から10月末という結果になります。春分をはさむ時期も同様です。この計算は私が勝手な仮定で行ったものですから、多少の誤差はあるかも知れませんが、前述の気象庁ページ内容と矛盾しない結果にはなっています。

20150906夜中の地球と太陽
左はステラナビゲーターのフライトモードを使い、最初の画像と同じ9月6日0:20の地球を俯瞰したもの(※視点はひまわりの位置ではありません)。周囲を見渡すとたくさんの星が見え、ちょうどしし座の方向に太陽が輝いています。ひまわり8号はいま夜中にこんな景色を見ているんだと思うと、なんだか胸が熱くなりますね。ひとりぼっちでがんばっているんだなあ…。

最初の画像に戻りますが、地球が三日月状に光っているところをよく見ると、赤い部分と青い部分があるようですね。逆光による迷光の影響もあるでしょうから、30分後の0:50の拡大画像を右下に置いておきます。赤い部分は低層の大気によって青成分を失った太陽光が地上の海や雲を照らしている光です。朝焼けと言って良いかも知れませんが、大気を直接通り抜けた光ではなく、大部分が地上からの反射光です。誤解ありませんように。上層が青くなっている具体的な理由を私は知らないのですが、空気分子の密度が極端に薄い上層では「空が青い」理由となってる散乱がほとんど起こらないため、別の仕組みが存在するはずです。
20150906_0050地球
何にせよ結果的に青いフリンジ光が気象衛星からも見えますし、皆既月食のとき月まで届いた場合はターコイズフリンジを作り出しているわけですね。

地球が日食を起こす真夜中の画像を日々解析すれば、もしかしたら月食の光学的な特性も研究できるのでしょうか?あるいは大気の汚れ具合なども分かるかも知れません。でも残念ながら衛星が気象観測に特化しているため、私たちはひまわり画像のなかに太陽を見ることはないでしょう。うーむ、ちょっぴり残念。

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