月の南極に名が刻まれたふたりの冒険者2015/08/31

昨夜は日本中に雨雲が垂れ込めましたが、雲上は美しい満月だったことでしょう。正確には30日明け方3:30過ぎ、ちょうど7月のブルームーンから1朔望月が過ぎたのです。7月末の満月をブログで紹介した際に「満月は欠けている」と書きました。

20150731満月
月食以外の満月は太陽と地球を結ぶ直線からわずかに離れるため、月の北極側か南極側のどちらかが欠けるのです。7月は南極側でした。難しく言うと「月の黄緯がプラス側に大きいとき」ですが、簡単には「自分より身長が高い人ほどあごの下がよく見える」と例えればお分かりいただけるでしょうか。

後日この画像をご覧になった星仲間のdocanさんから「スコット・クレーターが見えるよ」とのお知らせを頂きました。スコットというのは、もちろんあの南極探検をしたロバート・スコットさんです。

「スコットとアムンゼン」と言ったら、南極探検家のライバルとして有名ですね。二人はそれぞれ異なる国の探検隊を率いて世界初の南極点到達を競い、達成後の帰路で命運が真っ二つに分かれたことも知られています。冒険本(注:ゲーム本じゃないです)が好きだった私は小学生のころ読み耽ったものでした。

20150731月の南極
(a)

20150731月の南極
(b)
実は月の南極近くの大きなクレーターに二人の名が付けられています。そんな話題性のあるクレーターならぜひ見たいと思うわけですが、どっこい実際の観察はかなり困難。なぜなら、縁ギリギリだから。月探査衛星で真上から見ればひと目で分かる大きなクレーター。月の裏側にある訳でもないけど、地球からほとんど見えません。それが見えてると言うので早速確認しました。

丁寧にクレーターや地形をたどると…確かにあった!間違いなく写っていました。右上の月画像(7月31日撮影)の緑四角を拡大したのが左の(a)です。画像下部は確認に使ったVirtual Moon Atlasというアプリによる南極側シミュレーション。極力上下が対応するように位置合わせしてあります。極近辺クレーター探しの難度体験も含め自分で探してみたい方は(a)を、補助が必要な方は(b)をクリックしてご覧ください。薄青に着色したのがスコット・クレーターです。

では、どうして先月の満月でスコット・クレーターが写ったのでしょうか?それは「南極側がわずかに欠けて凹凸が良く見えた」という理由の他にもうひとつ大事なことがありました。それは「月の南極が地球側に傾いていた」からです。月は表側を地球に向けたまま公転していますが、加えて緩やかな周期で向きがわずかにふらつく「秤動」があります。左右(経度方向)に首を振る秤動は、例えば月面Xや月面Aの日時変化と見やすさに直接影響するのでご存じの方も多いでしょう。でも緯度方向…縦に首を振る秤動を実感する機会は多くありません。スコット・クレーターのような極地方の観察では緯度の振れが重要。難しく言うと「月面中央緯度がマイナス側に大きいとき」になりますが、簡単に例えれば「頭を上に向けるほどあごの下がよく見える」ということ。最初の例そっくりですが、実は同じことを言っています。

スコットさんのクレーターを見つけてしまうと、アムンゼンさんのほうも見たくなります。でも7月の月は4.7度北極側へ回転しているだけでした。このクレーターは6度(秤動の限界に近い)くらい回転しないと無理なのです。もちろん満月である必要は無いですが、少なくとも周囲に十分光が当たってないと探せません。結局は月齢12から16くらいのarround full moonが良いようです。

20120831月の南極
(c)

20120831月の南極
(d)
そこで、過去に山ほど撮影した中にもっと条件の良い画像がないか散々探しました。すると偶然にも3年前の今日(2012年8月31日)に撮った月が最適でした。(偶然ですがこの日もブルームーン。)その画像が右の(c)と(d)です。(d)は(b)同様補助入りです。確認したところ、アムンゼン・クレーターの縁までたどり着くことができました((d)の緑縁取りクレーター)。チャンスは年に数回ですが、今後もっと良い条件が巡ってくるなら、クレーターの奥にも挑戦してみたくなりました。これぞ文字通り、南極探検みたいな気分ですね…(笑)

なお地球からは確認できませんが、スコット・クレーターやアムンゼン・クレーターは月の裏に広がる「南極エイトケン盆地」の縁に相当します。この盆地は直径約2500kmもある太陽系最大の巨大クレーターとも言われます。また右画像の南極点(画像下部の水色+印)に接している右下の小さなクレーターも南極探検家のひとりアーネスト・シャクルトンさんの名を持つシャクルトン・クレーター。ここは「決して太陽光が当たらないクレーター」として有名ですね。地球の南極のように永久表土が期待された場所ですが、調査では否定的な結果のようです。

今日で8月もおしまい。9月になると日が短くなり寒くなってきますが、それは日本のお話し。これから地球の南極はようやく春を迎えます。